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エアのnetfilmsのレビュー・感想・評価

エア(2023年製作の映画)
3.9
 傑作映画『戦争と女の顔』を観た今ではそこまで珍しくないものの、第二次世界大戦当時の女性の兵隊と女性パイロットの話である。祖国の勝利を信じ、若い女性戦闘機パイロットが前線にやってくる。男たちは最初、慰安婦か家庭で育児をやっていろと冷たくあしらう。男尊女卑の社会にしか許されない言葉である。それでも集められた多くの女性兵は異性の同僚たちの攻撃にもめげる様子がない。モスクワから来た者がいれば、今のジョージア(当時のグルジア)から家族こぞってソ連に命を預けた者もいる。第二次世界大戦末期の独ソ戦争(ロシアでは大祖国戦争とも呼ぶ)は文字通り、熾烈を極めた。不意をつかれたソ連軍は当初は大敗し、ヒトラーは短期決戦によるソ連征服を豪語したものの一転してロシア軍の反転攻勢にじりじり兵力を奪われて行った。まさに今作はその当時のソ連空軍のパイロットたちの記録であり、登場人物たちは脚色されているものの戦争の状況はほぼ史実に忠実だ。地上戦ならともかく、戦闘機に乗れば男性も女性も関係ないことはわかるかと思うが実際に主人公となる女性のパイロットは大変優秀で、次々にドイツ軍の戦闘機を撃破して行く。

 然し乍ら映画は低予算そのもので、アメリカ製のVFX丸出しの戦争映画のような派手さは見るべくもない。地上には戦火に逃げ惑う人々が映され、戦闘機の飛行シーンも僅かに数カットのみで、被弾する様子も正面コクピットを映し出すようなシンプルさ一点張りなのだが、これは致し方ない。中盤、赤ん坊を乗せた主人公の戦闘機が後方から攻撃に遭い、小さな命が散るあまりにも非情な場面があるのだが、この重要なシークエンスでも潤沢な資金が無ければ赤子の鳴き声でしか表現が出来ないというあまりにも致命的な制約を感じた。逆に地上の世界での兵士たちの触れ合いのエモーショナルな葛藤と苦悩とには平時ではない彼女たちの平和への希求がありありと感じられたものの、やはり戦争映画としてはそれらのエピソードは添え物にしか過ぎない。『戦争と女の顔』があえて戦火の様子を一切伝えようとせず、戦争に翻弄された女子供たちの人生に焦点を当てた力作だったとすれば、女たちの戦争映画を撮りたいというアレクセイ・ゲルマン・ジュニアの想いはわかるのだが、この内容で151分は流石に長い。あとはデジタルな色味選択にも強い違和感を抱いた。
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