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西湖畔(せいこはん)に生きるのsayayumeのレビュー・感想・評価

4.1
東京国際映画祭にて

ポスターが惹かれて観た前作『春江水暖』のオープニング10分にすっかり魅入られた。
今回は川より山の趣。同じく杭州が舞台。

自分は二の次で茶畑に住み込みで働き、息子を育て上げた母。就活中の息子にもう少しお金を渡せたら。解雇も重なり同僚の誘いに乗ってしまう。それはマルチ商法の団体だった。
みるみるうちにハマり変貌する母。息子は何とか母を目覚めさせようとするのだが…

字幕では自分探しとなっているが、自己肯定の物語だと思う。欠けた部分を手っ取り早く満たすものが金だった。山の緑から一転、人工的な赤がスクリーンを彩る。母親役ジアン・チンチンの全身から解放されたかのような真情が狂気にみちて刺さる。
息子は母親を取り戻そうと必死に動く。彼の幸いは自分の肯定を物ではない行方知れずの父と母に求めたことかもしれない。ウー・レイは朴訥な青年に徹しつつ、母を守っていく表情に精悍さを見せる。

終盤に向けては神話のようでもあり、冒頭に出てきたある言葉にたどり着く。再び山川に抱かれた人間が取り戻すであろう強さ。
改めてグー・シャオガン監督の才能。
原題は『草木人間』
茶も重要な要素だという。また、息子の名前も中国では連想される物語があるそうだ。


人間は人間とだけ居ると狂ってしまうのかもしれない。だが人間といなければそれは人間と言えるだろうか。
山中の一見美しい緑にもよく見れば影の闇がある。
公開されたらそんなこともおもいながら観てみたい。
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