ねーね

西湖畔(せいこはん)に生きるのねーねのレビュー・感想・評価

3.3
東京国際映画祭にて。
中国の田舎で生きる母と息子、彼らが捉える人生の幸せとは。
そして現代における、生きながらの地獄とは?

澄んだ山奥で息を潜める茶畑の絶景を、真上からパラグライダーのように見下ろしていくカメラワークがとにかく美しく息を呑む。
あっという間にこの世界に気持ちが没入していくのを感じ、これだから大スクリーンで観る映画はやめられないのだと改めて感じる瞬間だった。

そんな荘厳な田舎で流れるゆっくりとした時間の中、つつましやかに過ごす母と息子の家族物語…かと思いきや、事態は一変。
穏やかな田舎ではなく、ギラギラ金欲に目を光らせた男女のイカれたパーティーに舞台は移る。
マルチ商法に取り込まれ堕落していく母、それを見て絶望する息子の地獄絵図へと一瞬で切り替わるそのコントラストの激しさに驚き、親子の行く末に目が離せなくなっていく。

女とは、母とは、夫や子供に縋らず自立して稼いで初めて幸せな人生だと言えるのか?
自分に自信を持つためには、身を粉にしてでも自分のアイデンティティを捨て去らないとならないのか?
稼げない女は役立たずと決めつける田舎の風潮に自分を殺されてしまった主婦の悲しき末路。
一生懸命子育てしても、「自分には何もない」と自我も自信もなくしてしまう女性が多いのかもしれない。
私には少しその気持ちがわかるけど、マルチ商法のような病から身を挺して救ってくれる素晴らしい息子の存在こそが、彼女自身の価値だろう。
人生で積み上げてきた一番の証がそばにいてくれること、私は羨ましいとすら思う。
ねーね

ねーね