ささ

マディーナのささのネタバレレビュー・内容・結末

マディーナ(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

上映後に監督さんや主演の女優さん、プロデューサーの方が登壇してのQ&Aで色々聴けました。


伝わったのは、監督さんや役者さん、プロデューサーにいたるまで強い想いでこの作品を作り上映されているという事でした。

ひとつに、カザフスタンでは映画に対しての支援がない中でパキスタンのプロデューサー(間違ってたらすいません。)と協力して各地の映画祭で上映する事ができたそうで、パキスタンとカザフスタンの共同の作品は今回が初めてなのだとか。

もうひとつが、主演の女優さんの実体験がこの映画の元になってることです。
監督と女優さんは親友同士で、女優さんが辛くカウンセリングを受けるている時も一緒に支えていて、そんな目線が作中の雰囲気を作り出していると思いました。

作品を鑑賞できるまでの永く険しい道程が伝わりました。


作品もとても良かったです。

シングルマザーで幼い娘を育てながら、ダンスを踊ったり教えたりしている主人公。

ダンスも踊る人々も様々でベリーダンスや社交ダンス、おばあちゃんがちょっとテンポがズレながら踊ってたり、子ども達が集団で飛び跳ねたり。
こんなに色んなダンスを教えられる主人公はすごい才能なのではって思いました。

日々のダンス教室で老若男女が多様なダンスを踊っていても、そこに主人公のカウントが入ってきて、スローでもアップテンポでもリズムが流れている。それが気分の浮き沈みと重なり、そのまま主人公の人生そのものの様に感じられました。

そこに度々、力のある男が停めに入って来る。主人公の生活しようとする力を狂わせる。これがこの作品の重要なテーマだと思いました。


カザフスタンでは一夫多妻制で、経済的に余裕のある男は第二・第三婦人と関係を持ってもいい。
そうなると貧困な人々は玉の輿の感覚もあるし、裕福な側も性に対する認識が低くなる。この認識からレイプ被害へと繋がっていく事を作品とQ&Aを通して知りました。

実際に多くの人々が被害にあってるそうで、権力の差は安易に人権を侵害してしまう流れを作ってしまう怖さを感じました。

主人公がなぜシングルマザーになったのかは語られないが、実の父親と思われる人には自分の子では無いと養育費も貰えない。
そのため主人公は養う為に仕事に追われる日々を送っている。
予想でしかないが、たぶん不倫関係(第三夫人?)で子どもを身篭った時に養う事ができず、男側が関係を切ったのかも。

一夫多妻制そのものが悪いとは思わないけど、そこからうまれてしまった悪習が主人公を何度もセカンドレイプしていくのが辛かった。
ダンスという自己表現を淫らだとか言ったり、結婚が一番の幸せみたいな言い方したり、攻撃する人はいるのに守る人がいない。それが当たり前の様なしんどさ。


ダンスの他に水・湖の表現も多かった。

主人公は不眠症の様で、ずっとエコーのかかった深海の様な音が鳴り続けていた。
まるで水底にいるようだった。
逆にプールで娘が水面を懸命に泳ぐシーンもあった。
防波堤やフェンス越しにカスピ海を眺める主人公も印象的だった。

見終わってから想うと、主人公は海面に浮き上がりたかったのかなと思った。
湖は社会そのものの様で、主人公は社会の圧力に押し付けられながらも生きている様だった。


大切な存在として主人公の弟がいたと思う。

主人公はおばの家で弟と4人で暮らしていて、弟はこの国を出て1人立ちすると言っているが、現状は社会に出られず主人公のお金を盗んでギャンブルをするダメな奴。

家族とは多少話せるが対人とのコミュニケーションが苦手な様。
でも、ハローワークの講習に行ったり、イヤホンで外国語の練習をしたり、努力はしている様だった。

そんな弟が終盤で苦しみながらカミングアウトする。
幼少期に親戚の男にレイプされた事。
そこで今作を観ていた自分は、これまでの弟の苦しみを理解した。と同時に無意識にセカンドレイプに加担している危険性を感じた。
Q&Aでも打ち明けられない事がもうひとつの問題だと言われていた。

日々の生活の疲労の中で、他者の苦しみに気づくのは容易ではないと思う。でも気づけた時に行動できるかも自分自身が試されると思った。
大きな流れに流される方が楽だけど、逆行してでも自分の意志で泳ぎ、踊る。
そんな主人公がかっこよかった。


冒頭にショーパブの控え室で若いダンサーがメイクをしながら玉の輿になるとか浮き足立った話をしていた。
そのグループから外れて主人公が1人座っている。
その後、育児をする主人公が映されていくと、この人は成熟した女性で育てる側、見守る側の人なんだと感じた。

この主人公への感覚が最後の行動への説得力に繋がっていった。

わが子や弟の様な将来のある子らに対してどんな道筋を照らせるのか。作っていけるのか。
そんな事を考えされられる作品でした。

細かい出番の各役者さんの雰囲気も良く、全て当て書きの様だった。

ショーパブと結婚式の鳥の衣装も皮肉がきいてて良かった。
ささ

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