シズヲ

ありふれた教室のシズヲのレビュー・感想・評価

ありふれた教室(2023年製作の映画)
4.0
教室と職員室で起きた盗難事件をきっかけに“社会の縮図”と化す学校の顛末。少数派への差別、多数派への反発、そしてジャーナリズムなど、様々な形で“大衆”を象徴していく生徒側。権威の介入によって事態の収拾を図り、共同体維持のためにスケープゴートを仕立て上げようとする学校側。両者の狭間に立つ主人公は行動力のある聡明な人物だし、相応の倫理感を背負いながら奔走している。

されど主人公のそういった姿勢はほぼ常に裏目に出続け、彼女は双方にとっての“出る杭”と見なされていく。学校側にとっては“少数派に肩入れする教師”となり、生徒側にとってはある意味で“権威と抑圧の象徴”となり……。両者の間を取り持ちながら何とか最善を尽くそうと行動し、しかしそれ故に孤立して“個人の限界”へと至っていくことの息苦しさ。作中で度々言及される“証明”という行為がある種の排斥へと繋がっていく、その皮肉めいた遣る瀬無さ。監視カメラに端を発する一連の事態は、ミニマム化された社会の姿を炙り出す。

窮屈なフレームの中で主人公の姿を淡々と追い続け、時には主人公の目線を代弁するように“校内=社会”を見つめるカメラワークが印象深い。ロケーションがほぼ学校内で完結することや、静かに緊張感を煽るような音楽の効果もあって、何処か密室劇じみたスリルに満ちている。徹底的に冷淡な語り口・話運びも相俟って半ばサスペンスの領域。そして本作、子供達が社会性と反抗心を持った存在として描かれているのが印象的。移民という存在への眼差しに端を発し、漠然とした人種的緊張感を発露させるクラスの様相は、明確に社会なるものを体現している(そして子供もれっきとした“社会の存在”であることを描いている)。

あるアイテムによって微かな救済を見出しかけたのも束の間、伽藍堂になった学園を淡々と映し出した末に訪れるラストは演出も相俟って強烈な印象を残す。警察に担がれ連行されていく姿、荘厳な音楽と共に映し出されることが却ってアイロニカルな味わいを醸し出している。
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