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ありふれた教室のRenのレビュー・感想・評価

ありふれた教室(2023年製作の映画)
4.0
【ゼロ・トレランス(不寛容)方式】1990年代にアメリカで始まった教育方針の一つ。重大な規律違反に関しては、その理由の如何を問わずに、規則に従って "寛容さ無しに" 毅然とした処罰を下す方式。
(Wikipediaより)

超面白い。アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートは当然だと思ったし、99分にあらゆる面白さが濃縮された最高のサスペンス。自信を持っておすすめしたい。

オープニング、オーケストラのチューニング音に合わせて教壇に上がるカーラ(レオニー・ベネシュ)。教師とは生徒たちを統率する指揮者であることを象徴した演出で、女性主人公の社会派スリラーということもあり『TAR/ター』を想起した。強者が弱者を統制するコミュニティの崩壊の話。

学校は社会の縮図だ、という惹句が今作にはついて回るだろうけどまさにそういう話で、全編が校内(厳密には一瞬外に出るシーンはあるけど)のみで展開する構成も、学校=社会の印象を強固なものにしている。密告、強要、脅迫、隠蔽、デマ、私刑、暴行、ありふれた社会で起こっていることは全部学校内の事件と紐付けて語れる。

主張と証明はノットイコールであることが数学の授業に準えて示される。その考えを提示した側が、個人の尊厳に関わる過ちを証明でなく主張していってしまう。教師は生徒にルービックキューブを手渡し、解き方を考えようと言う。不安定な要素が絡み合った校内事件は、解決に至る手段を見失っていく。
教育現場にあって全く違和感の無い要素がサスペンスの布石として無駄なく機能する、とても上質な脚本。

単純に見れば犯人を見つければ終わるはずの盗難事件だが、秘匿と憶測がどんどん大きくなることで、修復不可能な大事になってしまう。こんな教室ありふれてないだろと思うかもしれないが、世の中としてはありふれすぎている。『悪は存在しない』に似たタイトルのキャッチーさ。

あなたがここまでやったのなら事件解決のアルゴリズムは最早これしかないよね、と無言で突き刺す鋭利なラスト。学校という閉鎖空間のさらに教室という密室が取り調べ室のように見えた。ゼロトレランスを建前にした強者側の抑圧に対する一つの回答としての切れ味が鮮やかだった。

とにかく学校を舞台にしたサスペンスとして最初から最後まで緊迫感を失わない優れた作品なので、まずは楽しんで観てほしい。社会性と娯楽性が高いレベルで融合した良いエンタメとはこういうことだと思った。純粋に楽しんでもラストの後味については考えざるを得ない、良い作品。
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