ぜろ

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフのぜろのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ雑感

若い頃二ヶ月だけ恋人同士の関係にあった男2人が25年ぶりに会うが、彼らの子供世代同士の関係が殺人事件に発展するぐらいトラブっており、不幸なことに被害者女性の夫の兄のジェイク(イーサン・ホーク)は保安官で、容疑者の父親はシルバ(ペドロ・パスカル)だった、という話。

・「以前監督に打診されたけど英語での演出に不安があって結局断ったらしい『ブロークバック・マウンテン』(05)へのトリビュート」という見方がプレミア上映だったカンヌの時に多く出たらしい。
 ま〜そう言われてみればそう カウボーイどうしの同性愛映画で、気持ちが通じ合うことはあるが互いに女性と結婚したりもして、でもそういった事情や自分の気持ちからは逃れられなくて……という感じ。ただし、トークセッションでもあったけどアン・リーのそれよりわりとあっけらかんとしているというか、彼らがクィアであることをポジティブに見てるんだなというのは伝わってきた。もしペドロ・アルモバドルが『ブロークバック・マウンテン』を撮ってたら、あんなに暗くはならなかったんじゃないかなみたいな。
 『ブロークバック・マウンテン』て、山の中で2人だけの閉塞的な空間にいてそこで感情のやり取りが生まれて……みたいな、かなり奥に奥に閉じこもって、それこそ「クローゼット」というアイテムも登場する、内側に内側に行ってる感じの映画だった印象があるんだけど、本作はもっとひらけていて、だだっ広い荒野という西部劇の画が開放的にさえ見えた。とてもクィアな映画だと思う。
 クローゼットは出てこないけど、同じ引き出しから並んでいる同じ下着を手に取って、向かい合って履いたりしている。過去同じ「クローゼット」に入っていた二人。
 『ブロークバック・マウンテン』では、最後にイニス(ヒース・レジャー)がずっと持っていたジャック(ジェイク・ギレンホール)のシャツをクローゼットから取り出す場面がある。ジェイク(イーサン・ホーク)が25年ずっと持っていたシルバ(ペドロ・パスカル)の赤いバンダナはたぶんうっすらこれのことなんだろうな。

・冒頭でシルバがジェイクのいる街にやってくる場面で、女性ボーカルの歌を男性がリップシンクする映像がところどころ挿入されるんだけど、歌ってる人がシルバの視線の先にいるかのような編集になってた(ヒキのショットがなかったので実際どうなのかはちょっとわからない)のが面白かった。

・イーサン・ホークと西部劇というともちろん『マグニフィセント・セブン』(17)ですが、ここでも彼はイ・ビョンホンと「ソドムとゴモラ」と呼ばれるような関係を演じていた。そういう文脈のあるキャスティング。
・ところで私は「いつも(?)なら少なくともイーサンホークは役が逆なのでは…?」と思いながら観ていました。どう考えてもイーサン・ホークが25年経ってフラっと戻ってくる方だと思うんだけど、でもペドロ・パスカルが並んだらペドロ・パスカルがそっちになるんだ………ふ〜ん…………いいじゃん………

・私はアルモバドルの映画ぜんぜん観たことないんですが、2人が同時に映ってるところの体感で半分以上がダブルフォーカス(手前にいる人と奥にいる人両方にピントを合わせて撮る)で撮られていて(私にはそう見えたんだけどそうだったよね?)、その多さにちょっとびっくりした。よくやるやり方なのかな? トークセッションで画面の感じを表す言葉として「画中画」(絵の中に描かれた絵)という一言があったんだけど、ダブルフォーカスの、なんか観てる方がちょっと遠近感狂う感じがそうだと思う。こうもいっぱい出でくるとすごく画面がペタッとして見えてくるというか。
 思い返してみると、ダブルフォーカスが使われていたのは室内に二人きりのところだけだったような(映画自体がほぼ室内に二人きりなんですが)? とすると、あの二人の距離が近い感じ、近くてでもほんのちょっと妙に見える、関係の中にトラブルが潜んでいる示唆みたいな感じに見えるのかもしれない。室内での場面は顔が見切れるぐらいのクロースアップが多いだけに、外の開けたところに出るとすごく開放感があった。
 いちおうクライマックスみたいなところはあって、シルバが罪を犯した息子の家に行って、さっさと逃げてもう戻ってくるなと追い出そうとするんだけど、そこに追いついて息子を撃とうとしたジェイクを撃つんですね。
 ここ、シルバの息子も交えた三角形の睨み合いになって、ザ・マカロニウエスタンだった。『続・夕日のガンマン』(66)みたいな。ここでぐっと画面が立体的になって、メリハリが効いててかっこよかった。
 シルバがジェイクを撃ったのは、わざと急所を外して弾も貫通させる計算ずくの一撃で、シルバは倒れたジェイクを空になった息子の家の中に運び、甲斐甲斐しく手当をしてあげるという場面もありました。ここでまた画面がぎゅっとミニマムになって、二人だけの世界に戻っていく感じがした。
 ジェイクは撃たれたことにかなり納得いってない様子で、シルバはとても冷静。この辺すごくこの二人の付き合いの長さみたいなのが見えて良かったです。シルバの方が愛情表現がストレートだけど実はとても冷静、ジェイクは実直でしっかりしているけど激情家なところがある、みたいな。
 そのあと二人で「昔シルバがふたりで牧場をやろうとジェイクを誘った話」をちょっとして、なんとそこで終わります。後3時間くらい続いても良かったが?
 この最後のところの台詞を聞き逃してしまってうろ覚えなんだけど、「男二人で牧場買ってなにをやるんだよ」「互いを大切にして生きるのさ」みたいな感じだった……かな……たぶん……「男性どうしのパートナーで生きていくその先が見えないんだけど」という感じのジェイクと、「一緒にいればなんだかんだそれなりに生きていけるよ」という感じのシルバ、みたいな。
 この最後のシルバの台詞というか、ペドロ・パスカルのこの感じが、アドモバドルのあっけらかんとした感じなんだなと思う。秘密や問題を抱えているともうそこで先が見えなくなるようなきがするんだけど、それを抱えたままなんだかんだ時間は過ぎて、人は生きていくもの、という。面白かったです。
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