Yodaillness

一月の声に歓びを刻めのYodaillnessのレビュー・感想・評価

一月の声に歓びを刻め(2024年製作の映画)
4.2
試写会にて鑑賞
監督のティーチインも聞きました

ティーチインは、自分がぜんぜん消化できていなかったので他の観客の質問を聞いていたが、半分ほどは男性客の鼻持ちならない内容だったと思う
ストーリーテリングや撮影や音楽やキャスティングや演技について冷静に分析して見せたり細かな気になったところを質問していたが、その結果何が描かれていたのかについて触れていた人はほとんどいなかった「メッセージやテーマはどうでもいいので触れもしないが、映画の作り方は優れたところがあると認めてやってもいい」的なマンスプレイングのあり方にしか見えなかった

作品じたいはものすごく引きつけられた

第一章は、出てくる人たちの関係が分かりにくいので考えながら見ていくと突如として全てが分かってしまう作りですごく映画的
性暴力がテーマで、女の子が父親に、私は汚れてしまったごめんなさいって言ったということなのだけど
時代劇のような古風なことを言うのだなと思った
被害者の実感として、異物が体に入ってしまい気持ち悪い、自分の体ではなくなったよう、決定的に以前とは違ってしまったという感覚はあると思うが 子供がそれを「汚れてしまった」と表現するには男性社会に毒されすぎた言葉に聞こえる
フェミニズム的には汚れた訳ではないので
そしてそれについて「ごめんなさい」と親に言うのもさらに1段階も男性の価値観に染まっているように聞こえ、もっと言うと父親があまりにその価値観に浸かりすぎて、娘にそう言われたと思い込んでいるだけなのかなとも思った
その後父親が自分を責めたてて自分の男性性を憎み捨てることになったというのも、そう考えると自然であり、最後に「汚れてなんていなかったんだ」と気づき男性に戻るという流れは大いなる救いであり美しいなと思った

第2章は和むし、笑える
哀川翔がこんなに自然で好ましい演技をする人とは知らなかったので驚いた

第3章、モノクロのショットがとにかく良い
前田敦子が受けた暴力を語るところで、あえて第1章の女の子と同じ状況になっていることに気付かされる
より具体的に語られ、何が損なわれてどんな絶望なのか、どんな体験なのかを知ると自動的に第1章の少女に思いを馳せることができ、そのまま生きて大人になった時にどんな思いを抱えることになるのかを思い知らされる
序盤に映った小路のなんてことのない花が、犯行を行なった男の唇に見えるという言葉を聞いた後にあらためて見せられる
ものすごくグロテスクな花にしか見えなくなる
前田敦子が花を次々と引きちぎっていき、付き添う男の子がちぎった花を燃やし 過去に区切りをつける儀式のようにも見えるのだけど
前田敦子を囲む花がいくらちぎってもちぎっても無くならない
必死でちぎる者を嘲笑いながら咲いているように見える
誰も千切りきることはできないし、ずっと嘲笑い続けるのだというショッキングな光景に見えた
それでもラストは救い
本当に見事だと思った
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