ごんす

一月の声に歓びを刻めのごんすのレビュー・感想・評価

一月の声に歓びを刻め(2024年製作の映画)
4.3
三島有紀子監督が幼少期に受けた被害と向き合いながら確実にこの世界のどこかにいるこの映画を必要としている人へ向けて放たれた入魂の一作だった。

映画は一章から三章そして最終章と四章のオムニバス形式になっていて北海道、東京、大阪のそれぞれの島を舞台に物語が語られる。
登場人物が直接交わることはないが主人公達に共通して言えるのは本来自分が感じる必要のないはずの罪悪感に苛まれているということだと思う。

一章の主人公を演じたカルーセル麻紀はこれ以上ないくらい見事なキャスティングで映画終盤の長回しのシーン含め圧巻の演技だった。
主人公が過去に次女を亡くした記憶がこの章の中心だが帰省してくる家族との関係、特に長女との関係は仲が悪いわけではなく互いを思いやる部分も見える。
しかしどこか一生埋まらないんじゃないかと思う溝も感じるし次女を亡くしてしまったことが周囲の人間にどのような影響を及ぼしたのかが伝わってくる。

一見映画の中で浮いているような印象もある二章も、なんで彼らのような愛すべき親子が罪悪感を感じて生きていかなければならないのだと感じるし「人間なんて全員罪人だ」と言う娘の言葉は強かった。
二章は少し可笑しい所もあり比較的に観やすいが、心に沁み渡るようなパートだった。
彼らの感じる罪悪感とは別に実際に法に触れる罪を犯した人の視点も少し入ってくるのが特徴的。

予告を観る限りでは彼女が主人公だと思った三章の前田敦子パートはモノクロ。
実際に被害に遭った事件の犯行現場で監督もフラッシュバックで吐きそうになりながら撮影していると知り驚いた。

明らかに不穏な花のショットがあり映画を観終わってからあの花達を思い出すと本当にグロテスクな気持ちになり忘れられない。
この三章では「なんでこっちが罪悪感を感じなくちゃいけないんだ」というのを台詞でも言っているし本当にその通りだと思う。
しかも加害者の方は過去としてすっかり消化して今は普通に楽しく生きているのではないかと言うのはそれこそ『プロミシング・ヤング・ウーマン』とかとも通ずるけど近年の性差別、性被害をテーマとして扱っている映画とは本作はまた違う位置付けになるのではないかなと思う。
あまり似た映画を観たことがない。

一章で幼くして亡くなっている次女の名前が三章の主人公と同じ名前のれいこであることなどから監督自身から分裂して生まれた二人のれいこのようにも感じ、この人が生きてきて感じたことが映画になっているんだなと思った。
そして役者の理解力も半端じゃないから成立しているのだと思う。
広く受け入れられる作風では無いけれど
届くべき人にしっかりと届けば良いし届くはず。
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