さらまんだー

アンダーグラウンド 4K デジタルリマスター版のさらまんだーのレビュー・感想・評価

4.6
〜圧倒的スケールと世界観、THE 映画〜

映画作品とは、
作り手が持つ思想や価値観、訴求したい思いが投影されるものだと思う。
それを実現する手段の一つとして、
現代に合わせたテーマ設定や、より観客の感情にリンクさせるような構成を行ったり、演出や世界観の表現で映画のテーマを確立させたり、またはアンビバレントな手法により技巧的に主張を強調させたりするだろう。
手段は様々あるが、観者へ思いの丈をぶつけ、映画を通じて多くの人に親近感を持たせ、個人や世間の在り方を問う。
もちろん映画を作り続けるために、利益を生むことは必須であり、高低差はあれどマーケティング的側面も関与するだろう。
思いを伝えることは、並大抵のことではない。さまざまな手段の模索が必要であり、その媒体は映画以外にも様々ある。
音楽、美術、演技。教育や直接的なデモ活動もそうだろう。
それでも映画の作り手たちは、映画を選んだ。映画は今なお作り続けられている。
同時に映画は大衆娯楽でもある。
人々が映画に求めるものは様々あれど、
根本的には映画の根本はそこにあると考える。ただここにはあらゆる意見が存在しよう。娯楽性の追求のみを目指した作品のみが名作なのかと言われると勿論そうではないし、かといって娯楽性が皆無な作品でも素晴らしい作品は幾らでもある。作り手は映画の本質を独自に解釈し、作品を創る。そこに自由があるのか等の問答はもはや愚問であろう。できた作品は作り手と観者に何を与え、何をもたらしたかが重要なのである。

この映画は、
3時間という長編の尺で
暗くて陰鬱な雰囲気になりがちな戦争を背景とした映画でありながら、
喜劇と悲劇の二面性を持つ複雑な展開、奇想天外で大胆な演出、場面を揺らす壮大な音楽、俳優陣の愉快で巧みな演技など、極めて娯楽的な部分を持ち合わせ、テーマの深さと娯楽性が不思議とバランスが取れている映画である。

舞台は、かつて存在したユーゴスラビア。
第二次世界大戦期のドイツによる占領と、
その後の連合軍による攻撃、内戦を背景とした戦争による悲惨と、そのような時勢の中での人間の営みの部分、恋愛や友情・家族についても扱い、人間の内面を深く追求する。
観者を離さない娯楽性が、深く暗鬱なテーマを和らげる。躍動的でリズミカルに流れるバックミュージック、時折コメディタッチな台詞回しや演技は、映画としての完成度の高さを窺わせ、
大胆で遠慮なしの奇想天外な演出や、斬新で迫力旺盛、惹き込まれるようなカメラワークは計算尽くされたかとように見事で、スケール感ある大作感と前衛的要素を兼ね備えた二律背反的要素には感嘆。

作り手の思いを投影し、かつ観者の中に入り込むような娯楽性を兼ね備えたまさに"映画"である。

戦争は全てを破壊する。反戦への強いメッセージと、人間の内なる部分への問答。
自身の拠り所を失った時、希望が潰えた時、人間はどうやって生きていくべきなのか?

『この物語に終わりはない』

ラストに文字化された一文にあるように、
いまを生きる人々へ向けて、
時代は変われど変わらない本質を、
映画という媒体を通して、
問いているのではないかと思う。
さらまんだー

さらまんだー