クロ

青春18×2 君へと続く道のクロのネタバレレビュー・内容・結末

青春18×2 君へと続く道(2024年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

台湾の原作にインスパイアされた人が日本人の監督(藤井道人)の監督を熱望して作った作品らしいけど、この作品が日本人監督の手に委ねていい作品だったのかな?と思った。
原作未読なのでこの映画がどこまで原作に忠実なのか分からないけど、この作品自体は台湾人から見た、日本や日本の文化への憧れが綴られている。
その感覚は台湾人のほうがなんとなく熱量を持って描けそうだと思うんだけど、日本人は肌感覚でその熱気は分からないと思う。
内側の熱気を外側の人間が描こうとするとどうしても一歩引いた目線になってしまうと思うし、実際そうなっているなと感じた。
スラムダンクの聖地を訪れるところなんかもうちょっとテンション高く描写してもいいのになんか静かな感じなのは、作風がそうさせているというよりは原作者ほどその熱量が監督にないからなんじゃないかな~なんて思う。
清原果耶がバイトしだして、美人な日本人を見たくてカラオケ屋大盛況という描写なんてなんだそれとしか思わなかったけど、原作者からすると「日本への憧れ」がより形になって表れる、もっと意味のある描写なのだと思う。その気持ちが伝わる作りになっているかというと…


さらに、この原作者が「台湾人」なこともあって、逆に台湾の描写について何か刺激的なものはなかったな。
「18年前の台湾」に原作者が特に思い入れがない、メインはあくまで日本や日本の文化だならか、台湾の描写が街並み以外ほとんどない。
この映画でいう「台湾から見た日本・日本の文化」のような視点がないから、台湾についてあれこれ考えることがないまま映画を見終えてしまったな~。
藤井監督は「台湾映画みた~い」というセリフを挟みながら、おそらく監督が見てきた台湾映画のようなシーンを挟んだりして台湾映画風の雰囲気で映画を撮っているけど、自分が見ていて刺さるような台湾の描写はなかった。
モー娘。とかミスチルとか、当時の台湾の日本ブームってもっといろいろあるような気がするんだけどな。
台湾映画風の描写はあっても台湾を描写できているかというと…台湾の中でもメインは日本だから当然なんだけどね。


日本に対する憧れを日本人が監督したことで日本の描写が熱あるものになっていないし、18年前の台湾も描写しきれていないように見える。
結果、自分はこの映画を見終えて、台湾にも鎌倉にも松本にも行きたいと思えなかったなー…
『Love Letter』の翻案をしながら、喪失と再生のロードムービーに仕上げ、その喪失と再生も「生と死」だけでなく「バスケの怪我」、「会社の失敗」などといったエピソードを交えながら、喪失と再生を繰り返す「人生」という旅路の物語を作り上げた藤井道人監督の実力はさすがだなと思うけど、もっと台湾視点の映画を見たかったしそうあるべき映画だったんじゃないかなと思う。
これだと正直台湾と日本を跨ぐ物語である必要がないと思っちゃったな…完成度は高いんだけどね。

ってか藤井監督って岩井俊二フォロワーなのかな。この喪失と再生の物語と雰囲気は岩井俊二好きだからこそやれた気もするんだよな。「日本と台湾」より「岩井俊二」のほうに関心が向きすぎているようにも思うけど…

余談
清原果耶が実は死んでいて、この旅は「死んだ彼女に会いに行く」物語であることは、『Love Letter』を出した時点で察しがつくと思う。
「お元気ですかー!」と中山美穂の真似もしているしね。
でも自分は、この旅の終着点が「福島」であることが判明した時点で、この話になんとなく察しがついてしまった。
何なら東日本大震災で亡くなったのかと思っていたけどそうじゃなかったな。
正直、死を匂わせる意味で福島を出してきたと思うので、なんだかなーと思ったんだけど考えすぎかな?
でも藤井監督が岩井俊二フォロワーなら、『キリエのうた』で岩井俊二が東日本大震災を描いたことを受けて、この「喪失と再生」の物語に震災を裏テーマとして忍ばせるなんてことはやりそうだななんて思うけど…考えすぎかな…
クロ

クロ