Siesta

青春18×2 君へと続く道のSiestaのネタバレレビュー・内容・結末

青春18×2 君へと続く道(2024年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

本当に何の捻りもない例えをするのなら令和版「Love Letter」と言えるのだろう。かなり重ね合わせて作られていると思う。作品そのもの引用もそうだが、時間を経ての初恋の答え合わせとなっていく展開、それが“絵”によって明らかとなるラストや「失われた時を求めて」からのプルースト効果の引用、「お元気ですか」のオマージュ、雪原の風景と。でも、そんな安直な例えで済まされるような映画ではなく、恋愛映画として、ひいては人生の映画として、普遍的な感動作になっていると思う。個人的には藤井道人監督の最高傑作ではないかと。監督作では「余命10年」が最も近い作品だと思うけれど、細かな要素が個人的な好みを抑え過ぎていて。岩井俊二、特にMr.Childrenの大ファンとしては、今作にはもはや感謝に近い感慨さえ抱く。Mr.Childrenというバンドの解釈、素晴らしいよ、って。監督が必然というのも分かる。それから、直近で初恋振り返り映画が「4月になれば彼女は」、「パストライブス」と立て続いていて、いずれも旅に出ていく展開で、“やり直し”ではなく“確認”であるというテーマ性も重なる。「パストライブス」の方がより一歩踏み込んだビターな大人な味わいだったけれど、やっぱり日本人としてこういう“泣ける”展開にはなんだかんだ弱い。それも感動的なんだけど、個人的にはドラマチックさが醒めるようなオーバー加減ではなかったのも良かった。
冒頭、会社内の会議のような場で追い詰められているという想定外の始まり。どうやら、自身の会社を追い出されたところのようで、18年ぶりに実家へと戻るという岐路に立たされるシリアスさ。そこで見つけるアミからの手紙。その匂いを嗅ぐ、まずそこが良い。それも伏線として明かされるのだけど。東京で仕事の会食を済まして、1人、ささやかな旅に向かう。雪国、北へと向かう作品が「ドライブ・マイ・カー」、「すずめの戸締まり」、「キリエのうた」とも連なっていく。ロードムービー的な要素と人生の答え合わせというあたりはいずれも重なるし、特に「すずめの戸締まり」は出会いと展開の雰囲気が似ているものを感じた。
そして、18年前と現在が交互に語られていく。「SLAM DUNK」のポスターとマンガ、乱雑な部屋で起き上がり、遅刻してバイトに向かう。シュー・グァンハンの変身ぶりが見事。アミとここで実はすれ違っているけれど、ここを出会いと双方は認識していないのも良い。バイト先での最初の出会いのシーンのぎこちなさがめちゃくちゃ良い。この絶妙なリアルな空気。カタコトで、知ってる言葉で何とかやり取りしようとするこの感じ。これもスラダンが好きだから日本語も詳しいっていうのもちゃんとリアルなんだよなぁ。スラダン、ラブレター、ミスチルといずれも本当にアジア圏で人気あるから、きちんと日本との繋がりのリアルが描かれていると思う。スラダンは映画が大ヒット、ラブレターはネタにされるほど有名で、ミスチルも日本以外で唯一単独公演をしているのは台湾だし。あと、スラダンは岩井俊二監督の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」でも出てきていて、やっぱりスラダン、岩井俊二、ミスチルって、めちゃくちゃ90's日本カルチャーの記号としても成立していると思う。神戸って名前は日本人オーナーだからっていうのも割と大事で、だからアミが来たっていう理由にもなるし。ジミーのぎこちない優しさが可愛い。反発して、髪、短い、年下、って可愛過ぎかよ。眩しく楽しみを見出していく生活の躍動。バイクでの初めての2人乗り。台湾映画みたい、なんてメタ的に茶化してしまう余裕までありつつ、橋の上からのバイクに乗る2人だけの世界。あまりに多幸感に満ち溢れた瞬間。だからこそ、ものすごく“ピークだ”と感じて切なくなってしまう。さらに、彼女のセリフからも彼女自身が先を長く思っていない人生観が匂わされ、さらには海での職場の面々とのシーンでもアミは遠くから見守るだけ。ここでもう察しはつく。海で眺めるカットなんて「余命10年」とそのまんま同じだし。それに、今の時代に語られる作品として、この作品がジミーとアミの初恋の成就に向かっていないことは、ある程度予想がつくことではある。それにポスターや予告の時点で、18年後のアミのビジュアルはないわけだし。あと、やっぱり「パストライブス」でもそうだったけれど、恋愛って、あの間合いの空気が1番ロマンティックだよなぁ。そして、危ない。通じ合ってしまう瞬間の魔法。
そこからの現在。モノクロのホテルの一室。先ほどの18年前の自室とはまるで異なる。この対比での“大事な何かを失ってしまった”感が見事。また、しっかりと自然音を活かす雰囲気が素晴らしい。足音、風の音、景色。それらをセリフや音楽が邪魔をしていないというだけでどれだけ素晴らしいか。さらに雪国へ向かう中での幸次との出会い。これを不要と言う人もいるかもしれないけれど、個人的には道枝駿佑というキャスティング込みでめちゃくちゃ重要だと思っている。正直、彼なしではかなり“おじさんホイホイ臭”が強いと思う。清原果耶は良い意味でキラキラ感よりも落ち着き、優等生感があって、主人公が広瀬すずだったら、たとえ共演シーンがなくても道枝駿佑では違ったなと思うけれど。しかも、10代代表的なキャラクターなんだよな。“映え”を狙って写真撮って、ザ・若者のように見せつつ、旅の理由が割としっかりしていたり、何よりも電車がトンネルを抜ける瞬間の「ここは心のシャッターで」がもう見事。ここでしっかりおじさんを裏切りつつ、戸惑っているうちにパッと開ける雪国の景色。ここの美しさは衝撃的。電車の車窓ギリギリのアップではなくて、ややミドルショット気味に正面に加えて両サイドの窓からも雪が見えるあの構図が素晴らしい。まるで「Love Letter」のようだ、と。2人で「Love Letter」を見に行ったデート。デートだね、と。台湾の映画館のノスタルジックな雰囲気も良い。映画館が出てくる映画としては直近の監督作の「パレード」とも重なる。監督が映画愛をまたしても示してくるのも好き。変に気取り過ぎて寒くなってないしね。映画を見て、打ちひしがれる2人。「Love Letter」で最後に届く“ラブレター”。それを2人はそれぞれの視点で見てしまったのだろう。アミは自分好みではない思っているジミーには、純愛が時間を経って届くということ、この時点では明かされていないがおそらく先を知るアミは、亡くなってからでも想いが届くことがあるのだということ、さらにはジミーの想いもこうして巡ってくるのではないかということに打ちのめされたのかなと思う。アミはやっぱり、ジミーの人生を応援するために深入りせずさせずに距離を置いていたのだろうと。だからこその別れの選択。悩み抜いた結果、ジミーがランタンに連れて行くというこの必死さがもう愛おしい。ランタンに託された願い。自分の夢を見つけてそれを叶えること。旅を続けること。そして、後に分かる部分でもあり、言外に含む部分として、それはイコール生き続けること、ひいてはジミーの夢が叶うまで生き続けるということであると。あと、ジミーがアミの人生に何か跡を残しているのだろうか?と不安になるセリフはめちゃくちゃ岩井俊二的。「ラストレター」の福山とトヨエツの居酒屋のシーンよ。お前は何も残してなんかいない、ずっと思っていたって、俺の方が彼女の人生には跡を残しているんだよ、という。
ランタンのシーンにかけては黒木華が登場。藤井監督の過去作にも出ているけれど、黒木華は岩井俊二監督のミューズであり。岩井俊二のミューズ黒木華、藤井道人のミューズ清原果耶。あそこのクロスカッティング、ジミーとの関係性的には噛み合わないんだけど、キャスティングとしてめちゃくちゃ繋がって。というか、個人的な知識として色々な要素があそこでめちゃくちゃ繋がってしまって、うわってなった。岩井俊二と藤井道人。それぞれのミューズである黒木華と清原果耶。さらに2人が親子役で共演したMr.Children×docomo 25周年ムービーも思い出す。それがまたMr.Childrenの音楽と共に人生を振り返るというもので、最後にかかるのが当時未発表だった「皮膚呼吸」のデモ音源。「離れた場所から何が見えるだろう」というデモの歌詞。この楽曲自体がMr.Childrenが年齢を重ねて過去を振り返り先を見据える楽曲であり、完成した歌詞の「意味もなく走ってた いつだって必死だったな 昔の僕を恨めしく懐かしくも思う」、「でも 皮膚呼吸して 無我夢中に体中に取り入れた 微かな酸素が 今の僕を作ってる そう信じたい」という歌詞まで浮かんできて、めちゃくちゃリンクしてしまった。さらに岩井俊二の音楽をずっと担当してきたのが小林武史で、そのコバタケがずっとプロデュースしてきたのがMr.Childrenで、今作の主題歌がMr.Childrenっていう。さらに小林武史がMr.Childrenの活動姿勢をインタビューで“切なさとともに進むのだ”と語っていたのとか、もう必要以上に妄想で脳内が全部がシナプスしちゃって。だから、Mr.Childrenの解釈が見事っていうのはそういうことで。あと、2人が聞いているミスチルの曲なんだろなぁとか。あそこ聴かせないの個人的には良い。時期的にも1番しっくりくるのは「Sign」かなぁとか。「ありふれた時間が愛しく思えたら それは“愛の仕業”と小さく笑った」なんて。
そして、終着点。アミの現在が薄らと語られては確信に変わっていく。彼女は亡くなっていたと。ここで明白な原因を心臓の病という言及に留めたのは良かった。藤井監督、過去作でもちょっと突然、偏差値下がる瞬間あるから、変にファンタジックな病とかあざとい感じにし過ぎなくて安堵した。あと、実は連絡がつながらないことで薄々勘付いていて、それを“確かめる”ための旅だったと。だからこそ、ジミーを派手に号泣させるみたいな演出がないのもめちゃくちゃ良かった。そこからのジミーへの“ラブレター”。絵日記、ランタン、バイク、2人の姿、感謝の言葉。アミの視点で振り返るあたりは感動的なサービスも込みかな。そして、青春にさよならを。新しい道へ。後悔は消えない。でも、ともに生きていくのだと。
エンドロールはMr.Childrenの「記憶の旅人」。ファンなもんでリリース以降ヘビロテしていて、遂に劇場で聴く。実写邦画のエンドロールで主題歌が歌詞入りなのあんまり記憶にない。そのくらい作り手はしっかりと歌詞も噛み締めてほしいということなんだろう。Cメロの歌詞「君が僕に残した希望のサイン」の意味が分かったよ。
それから、17時台の回ということもあり放課後の高校生たちが劇場内にたくさん来ていて驚いた。誤解を恐れずに言えば、壁ドンだとか、王子だとかのトンチキキラキラ映画やアニメも良いだろうけど、こういう作品に高校生たちが集まって泣いているってのは、やっぱりもの凄く偉大なことだよなと思う。
あぁ、でも自分は18年経っても味のするガムは持ってねえなぁなんて風にも思っちまったよ…
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