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副王家の一族のodyssのレビュー・感想・評価

副王家の一族(2007年製作の映画)
4.0
【すぐれた人間喜劇】

ヴィスコンティの『山猫』だとか、ヨーロッパ貴族の出てくる歴史映画が好きな人にはお薦めできる作品です。逆に、時代や舞台が現代日本から遠く隔たっている映画でも現代日本人の感性でしか評価ができない人は、面白いとは思えないかも知れません。

『山猫』の例を出しましたが、舞台もシチリアだし、貴族の舞踏会シーンもあるので、どことなく共通性が感じられます。違うのは、『山猫』ではバート・ランカスター演じる侯爵が時代の変化によって没落を余儀なくされる自分たちの存在を自覚し、なおかつその中で貴族の品位を最後まで保とうとするのに対して、この『副王家の一族』では家長の公爵が権威主義者であり、自分の命じた事柄は絶対であり、息子の教育や娘の嫁ぎ先は全部自分で決める一方で、迷信深くて近代医学には信頼を置かず、どう見ても現代人が共感できるようなキャラクターではないことです。この嫌われ者を演じるランド・ブッツアァンが、顔つきはちょっと津川雅彦に似ています(笑)。

冒頭から遺産相続をめぐる話が出てきて、長男である公爵は次男の相続分を策略を用いて強引に自分のものにしてしまいますし、その父に反抗した息子コンサルヴォにしても庶民の美しい娘を手込めにしてしまいますし、公爵の妹は兄の反対を押し切って貴族ではない弁護士と結婚しますが必ずしも幸せではなさそうだし、公爵の娘は相思相愛の青年がいたのに別の醜男と結婚させられると知っていったんは反抗しますが結局親の言いなりになる(この娘を演じるクリスティーナ・カポトンディが可愛い。すでに20代後半とは思えない初々しさ)。人間が、自分の純粋な欲望や意欲だけではなく、家系や財産と言った要素に否応なく縛られている様子が、情け容赦もなく描かれているのです。

そんなことは昔の話だから、今の日本には関係ないと思う人も多いでしょう。だけど、本当にそうなんでしょうか? 二世三世の政治家が多い現代日本。開業医の子供も医者になる率が高い。よく考えてみれば、こういう貴族の世界にだって現代日本に通じる要素はそれなりにあるのです。

人間の持つどうしようもない醜悪さやしがらみを描いた人間喜劇として見るなら、興味深い部分がたくさん見つかるはずです。
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