ほんと良い映画。
紀子の縁談を軸に、三世代世帯の生活を描くうちに人生の総体みたいなものが浮かび上がってくるのが素晴らしい。子供はやがて大人になり、結婚して今度は子供ができ、やがては老いていくという「大きな物語」を信じられた時代の素朴な映画だが、小津作品に通底する無常感はいつも沁みる。
活発な淡島千景と落ち着きのある三宅邦子まわりのコミカルな描写も面白い。
襖の奥から笠智衆がヌッと出てくるところとか、ショートケーキを子供に見られないよう隠すシーン、原節子が饒舌な秋田弁を披露するシーンなど、どれも良い。
場面転換時に時折使われる、小津にしては珍しいトラッキングショットが、ラストの揺れる麦へと繋がる、ある種の伏線となっていたのも印象深い。題名にもある「麦」が、戦後日本の単なる風物以上の重要なモチーフであったことの証左。