けんいち

東京暮色 4Kデジタル修復版のけんいちのレビュー・感想・評価

東京暮色 4Kデジタル修復版(1957年製作の映画)
4.5
初鑑賞。
この作品の白いマスクを着けた原節子の姿は周防正行監督「変態家族 兄貴の嫁さん」でオマージュされているのですが、大井武蔵野館で周防作品を観てから30年経ってオリジナルの白いマスクの原節子を観ることが出来て感慨深いです。

それはともかく世評通り本当に暗い物語です。
有馬稲子が彷徨う夜の盛り場とかフィルム・ノワールの味わいですね。
小津監督が喜劇作家としての資質を徹底的に抑え込んで作った映画で、詳しいことは知りませんがこの当時の小津の中には悲劇的な話を作る内的衝動があったのでしょう。
そう思わせる迫力と説得力がある作品です。

後半は山田五十鈴がその存在感で作品全体を持っていってしまいます。
山田五十鈴はこれが唯一の小津作品出演だそうですが、彼女が登場すると作品の空気が変わる気がします。

終盤、上野駅で列車の窓からホームを見つめるシーンは、間違って成瀬巳喜男監督作品を観てるんじゃないかと思うほど暗い情念が画面を覆う名場面ですね。
パートナー役の中村伸郎も味わい深いです。

杉村春子はその軽妙さで重い話に救いを与えています(私は杉村春子って何故か大好きなんですよね。小津作品では割と損な役柄のイメージですが。)

笠智衆はまあいつもの笠智衆としか言いようがありませが、ちょっと影が薄いですね。
というか本作に登場する男はズルかったりクズだったり女に頼り切りだったり情けない奴ばっかりですな😅