ルサチマ

東京暮色 4Kデジタル修復版のルサチマのレビュー・感想・評価

東京暮色 4Kデジタル修復版(1957年製作の映画)
5.0
『東京暮色』と『お早よう』はムルナウの描いた都市を最も見事な形で日本の風土に翻訳したものじゃないかと思っている。外観がなく、路地を除けばほとんど建物の全景を撮らない小津だが、部屋の室内から窓外の世界が最後のかつての母が旅立つ電車の中で強調される。外を仄めかすのは音であり、音の力によって有馬稲子は事故(自殺)=死に巻き込まれる。画面はその後、ラーメン屋の珍珍軒の暖簾を揺らすものの、小津の描く都市=東京はあくまで内部に広がり、そこでは生と死が並列に語られるが、磯崎新が日本には都市がないと見事に批判=批評した通り、内部空間から放り出された外部には「見えない都市」の力そのものによって廃墟=死が広がることを、音の力や暖簾を揺らす風という画面に映ることのない存在が雄弁に語る。
このことと恐らく関係するだろうが、今回見直してドキリとしたのは有馬稲子が愛人と再会する珍珍軒で流れる「安里屋ユンタ」だった。沖縄は磯崎新が終の住処に選んだ土地でもあったが、東京の暮れ行く景色が、小津の手によってふと沖縄の地(有馬稲子の死を誘う前触れ)へと接続されているようにさえ思われる。
原節子と離れ離れの状態にある沼田の「忘れた」ソフト帽が最後まで暗示的にこの映画に不在の眼差しを導入していたことも記憶に留めておく。
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