Monisan

秋刀魚の味 デジタル修復版のMonisanのレビュー・感想・評価

4.2
観た。

ついに手をつけてしまった。
でもここへ来るまで色々と遠回りをしておいて良かった。

冒頭の煙の出る煙突の工場や、情緒ある楽曲にのせて映る東京の景色。登場人物の抑えられた感情や棒読みのような台詞のやり取り等は、まるでアキ・カウリスマキの映画のよう。
イマジナリーラインを無視した会話する人らのの切り返し。人物が中心に置かれた構図、部屋の切り取り方はまるでウェス・アンダーソンのようで。
勿論、逆なんだけど。

美術のセットも素晴らしいし、なんて完成された映像なんだろう。品格のようなものを感じる。

台詞のやり取りも品がある。
終始穏やかな口調なんだけど、大袈裟な表情や仕草が無くても、様々な感情をこちら側が受け取る事ができる。

お話はささやかな日常の話。
妻に先立たれた平山の娘との向き合い。恩師ひょうたんの悲しい老いと行き遅れた娘を見て、ようやく我が事になる平山。
同級生2人が冗談まじりでサポートする姿も愛らしく良い。

長男夫妻の様子も好きだな。ゴルフクラブを諦められない夫に、知らないを連呼する妻。可愛らしい。

お見合いまで進む所から、次は結婚の決まった娘の花嫁姿にジャンプする。その間の様子は描かなくても、観ているこちらは行間を勝手に埋める事が出来る。

最後の平山の悲しい項垂れた姿で映画は終わる。切ないけれど、哀愁あるエンディング。

同窓会での会話とか、バーで亡き妻の面影がある岸田今日子にマーチをかけてもらうシーンとか、ひょうたんの中華屋とか、全てが上手くいく訳はない。でも、ありのままの日時を肯定してもらえるような映画。

石川台駅の様子や、森永チョコレートの回る看板。当時の東京という街を見られるのも良い。この街で暮らしている事が幸せに思える。

日本人として、やはり観ていくべき作品なんだな。ちなみに秋刀魚は出てこなかったかな。

野田高梧、脚本。
小津安二郎、脚本・監督
Monisan

Monisan