黒猫ぽち

水平線の黒猫ぽちのレビュー・感想・評価

水平線(2023年製作の映画)
5.0
僕はピエール瀧さんが好きなので、この作品を予告編で知って以来、上映が始まるのを楽しみにしていました。

本当のことを言えば、初日の監督舞台挨拶の回に入りたかったんだけど、拠ない状況でその日には行けなかったのはちょっと残念だった。ようやく今日、一週遅れで劇場に来られました。

この物語の中で僕の印象に残っている場面はたくさんあるけれど、いくつか挙げるなら、真吾(ピエール瀧)が松山(遊屋慎太郎)に松山の兄の遺骨を返しに向かい、引き返す場面。雨の降り頻る中、松山が脇目も振らず除染作業をしている姿を見つめ、自分の気持ちをはっきりと見定めて踵を返すこの場面で、真吾が心の中でいろいろな感情を整理して道を決めたように感じました。

それから散骨のために船を貸してくれている船長・清一(渡辺哲)に船を出してくれと懇願する場面。「オメェがやらなきゃならんことなのか」という清一に「じゃあ誰がやるんだ!?」と真吾がいう。この場面に僕は自分の日常を見つけたような気がしました。

そして散骨を済ませた後のジャーナリスト・江田(足立智充)と言葉をぶつけ合う場面。この物語を通して、江田は(僕の個人的な印象ですが)本当にイヤなジャーナリズムをしっかりと演じていたと思います。社会正義を代弁するということのいかがわしさが滲むどころか溢れ出ていたように思います。ジャーナリストにもいろいろな人がいるのでしょうが、こういうイヤな奴もいるんだろうな〜、でも真吾はいい負かされず(かといって論破したというわけでもない)、この後どうなったのかを想像させてくれるところが良かったと思います。

僕は自分自身が震災の被災者でもなく、連続通り魔事件の被害者遺族でもなく、そこに生き暮らす漁師でもなく、この物語の中のどの立ち位置にもいないので、そういう人たちの心情、思いというものがどんななのか、本当のところはわからない。そういう自分がわかっているかのようなことをいうのはちょっと違うだろうと思っています。だからこそ、こういう物語に接した時、精一杯想像しようと思います。そして相手の立場や思い、苦痛や願いにできる限り想いを致した上で自分が取るべき行動を決められるようになりたいと思います。いつもそう思っていてもなかなか難しいことですが、この映画を観て改めてその気持ちを確かめたところです。
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