このレビューはネタバレを含みます
フォーラム仙台で見た。監督とピエール瀧の舞台挨拶付き。
<ストーリー>
福島で散骨業を営む井口真吾。食品工場で働く娘との粛々とした暮らしの中に、ある骨が持ち込まれる。それは何人もを殺した死刑囚の骨だった。ジャーナリストに追及され、賛否の声にさらされる真吾はどうするのか?
舞台挨拶付きで、「お、ピエール瀧が生で見れるよ」とそんなに電気グルーヴのことも知らないくせに興味本位で嫁はんを誘って足を運び、結果として誘って失敗じゃなかったとほっと一安心できる良作だったと思う。
小林監督は役者出身(『凶悪』でピエール瀧に殺される役をしていた)ということで、演技が抜群に自然で「海辺でのアイコス吸いながらの会話」「スナック嬢へのセクハラ」「車での地元のバカな若者とのやりとり」などが抜群に嘘くさくない。小林監督が福島県に行脚していたということも大きく影響していると思う。
「海に殺人者の骨がまかれて魚がまた売れなくなったらどうすんだ」という漁村の男の声もリアルだったし、島出身の嫁はんは「この島から出ていけない」という漁村の若者の閉塞感がよく出ていると語っていた。
ようするに、小林監督が実際に触れたもの、培ったものはそりゃいいのだ。
じゃあ何が物足りないかというと本作の中心にある「殺人者の骨を被災者の眠る海に散骨することの是非」である。
はっきりいってそんなもん、いいに決まっているのだ。
作中で真吾が語っていた通り「トイレにまこうが海に流れる」し、「被災でなくなったかた全員がいい人だったわけがない」。よき人も殺人犯も飲み込むのが津波である。
なので、最終的な真吾の決断にも「そりゃそうだろうね」という感想しかいだけない。自分の嫁さんが津波に飲まれてしまったという部分がより一層抵抗感を強める要素にはなると思うのだが、作中に出てきたジャーナリストが明らかに悪役過ぎてなあ。。
たとえば殺人犯が散骨されつことを望んでいたとか、ジャーナリスト自身が家族を殺されて憤っているとか事情があるならまだしも、どう考えても正義の暴走人としか見えないので、「あいつ無視して早く散骨しろ」としか思わない。
作中の描写からも特に世論も過熱していなかったように見えるし、結局中心めいたテーマはまやかしで、描きたいテーマは津波で家族や家や生活基盤を亡くして喪失感を抱えながら鎮魂を続ける福島の人々の暮らしにあったのだろう。
ただ、それだと確かにあらすじで目を引く部分がないので、「殺人犯の骨をまいていいのか」みたいなテーマを入れたくなる気持ちはわかる。わかるが、やっぱり薄かったなあ。
でも、是枝作品のように人間を撮る力がある監督であることはすごくわかったので、今後も期待したい。