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GIFTのtoのレビュー・感想・評価

GIFT(2023年製作の映画)
5.0
東京 FILMEX 映画祭 2023
特別上映「GIFT」 濱口竜介監督

映画が始まる前は、失敗した、と思った。

気鋭の濱口監督の新作のジャパンプレミアで、石橋英子さんの音楽の生演奏があって、上映後のティーチイン(Q&A)もあるということで、楽しみにしていた。

しかし、会場がいつもの朝日ホール(有楽町マリオン)で、段差がないから目の前に他人の頭があって、常にスクリーンの真ん中が邪魔されてる状況な上に、濱口監督は海外からの帰国が遅れたためティーチインに参加できず、冒頭のビデオメッセージのみ。

えー、チケット4000円もしたのに。超プレミアだからと、前方の席をすぐ決めたの、失敗したーと思っていた。

この映画は、「ドライブ・マイ・カー」でも音楽を手がけた石橋英子さんが、映像に合わせて生演奏する、ということで始まった企画だそう。
映画じたいは、ストーリーのある無声映画で。

最初、ドキュメンタリーかと思った。それほどに自然。有名俳優とかいっさい出てなくて、普通の人々が登場する。

途中からすごくひきこまれて、身を乗り出して見入ってしまった。前の人の頭も関係なく。

音楽も、普通に劇版が流れているのかと思った。でも、生演奏していたそう。どこで演奏してるのか分からなかったけど、たぶん舞台袖とか調整室とかで。映像を見ながら、楽器やシンセを弾いたり、用意した音楽を出したり出さなかったり、していたと。

この映画「GIFT」を上映するときは、今後も必ず、石橋英子さんがライブ演奏をするのだそう。だから今日の上映は、すごく貴重な機会なんです、と濱口監督がビデオメッセージで言っていた。

この映画は、先のヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞をとった濱口監督の映画「悪は存在しない」(2024年公開予定)と同じようなストーリーなんだって。

映画自体はサイレントだけど、きちんと物語がある。ドキュメンタリーかと思うほど自然な演技は、いつもの濱口監督の手法の、感情を入れずに台本を読むリハーサルを繰り返すことでセリフが自分のものになる、濱口マジックによるもの。主演男性も、俳優ではなくて、ふだんは映画の作り手なんだそう。今回シナリオハンティングに運転手として同行したあと、出演することになったんだそう。今年、初監督作が公開される、と遠慮がちにお知らせしてて、遠慮しすぎて作品名も言ってなかった笑

濱口竜介監督は、カンヌ、ベルリン、ヴェネツィアと、世界3大映画祭で主要な賞をとり、そこからなお、無声映画+生演奏という新しいチャレンジをしていて、それがめちゃ人を引きこむものでした。唖然としました。

満席の会場も、濱口監督の新しい試みに居合わせた高揚か、ざわついてました。

濱口監督、2021年のフィルメックスでは映画「偶然と想像」のプレミアで、生き生きとティーチインしてくれたのが好感でした。

今年は、冒頭のビデオメッセージで、目のクマがすごいな、フィルメックスをすっぽかすなんて大丈夫かな、と思っていましたが、いざ作品を見ると、大丈夫どころか、すごい高みに行ってるー、と思いました。
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