ブラウンソースハンバーグ師匠

GIFTのブラウンソースハンバーグ師匠のレビュー・感想・評価

GIFT(2023年製作の映画)
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チケットがA列で「神番や!」と思っていたら、それは石橋英子の音楽ライブに限った話でした。最前列で観る大大大スクリーンはパニック映画の巨大生物に出くわしてしまったような迫力があり、もうゲボが出そうでした。おそらく、「GIFT」というのは、A~C列辺りから生成されるゲボのことを指しており、「あ、天才すぎて、いよいよニューエクストリームシネマにも着手し始めたんだな」と納得しました。

冗談はさておき(ゲボは冗談ではなく)

個人的に、監督は「立体的に言葉を積み上げていき、言語化不可の領域に到達する」人という印象があり、サイレント映画の今作は、致命的にもその持ち味である「会話」が引かれている。登場人物達はどんな声色で話しているのか。また、台詞を映像で表示するため、その手続きとして話している人物の一枚絵が必要になる。そうなると、聞き手側がどのような表情をしているかが全く分からず、会話として円滑ではなくなる。トークセッションで言っていた「悪は存在しない」との比較も兼ねて「自分の映画ではないみたい」という発言は、正にその通りだと思った。
会話が引かれたことで、自然と石橋英子の「音楽」に要請されるものは多くなる。
冒頭で主人公の使っているチェーンソーと音楽が同期しており、一方で説明会の不穏なシークエンスでは、映像の雰囲気とはミスマッチな開放的な音楽が流れていた。あれは登場人物の感情とは別の、会話の磁場が発生したことそのもののダイナミズムを表していたのだろうか。
クローネンバーグ監督の「クラッシュ」のように「これじゃないと駄目なんだ」という劇伴もあるが、今作のような心情を補完しないような劇伴もあるのかと不思議な体験をした。