なべ

燃えよドラゴン 劇場公開版 4Kリマスターのなべのレビュー・感想・評価

5.0
 「シアター2にて、燃えよドラゴンの入場を開始しました」とロビーにアナウンスが流れた途端、鳥肌が立った。「燃えよ」なんてタイトルが今どきではなくて、一気に昭和に引き戻されたのだ。
 同じ年代(おしっこが近い)の連中が大勢いて、男子トイレは長蛇の列。昔の映画がリマスター公開されると、観客の年齢層が一気に上がるんだよな。上映が終わると初老のおっさんたちによる拍手が湧き起こってた。
 今回は50周年記念と銘打っての劇場公開版の公開。ディレクターズカットじゃないのが嬉しい。鏡を割るのに師匠の教えなんていらないから。
 モノラルだった音声はサラウンド化され、劇伴が場内に高らかに鳴り響く。ところどころセリフに残響成分が付け加えられてたが、印象はほぼ当時のまま。
 映像は4Kリマスターとはいえ、さほどきれいにはなってない。当時、現像を行なったのが劣悪な香港のラボだったせいで(きっと現像液も古かったに違いない)粒状感が強い。おそらくリマスタリングもここらが限界なのだろう。
 改めてスクリーンで見ると、やっぱり迫力が全然違う。すでに病魔がからだを蝕んでいてガリガリなんだけど、その分筋肉の躍動がよくわかる。怪鳥音とともに画面狭しと暴れ回るリーの勇姿がまぶしい。
 ゴジラ−1.0での神木隆之介の横目の無表情演技が滑稽で、たびたびギャグとして使わせもらってるのだが、同じような表情のシーンがあって思わず噴き出しそうになった。神木隆之介め!
 
 内容はについては通常版のレビューでほぼ語り尽くしたから、ここでは冒頭の弟子とのやりとりを。

“Don’t think. feel! It is like a finger pointing away to the moon. Don’t concentrate on the finger, or you will miss all that heavenly glory.”

 「考えるな、感じろ」。燃えよドラゴンは知らなくてもこの台詞は知ってる人も多いだろう。「直感を信じろ」と訳されることも多いが、違うと思う。ブルース・リーがそんなことを言うわけない。
 「それは月を指差すようなもの。指先に気を取られるな。でないと栄光(月の輝き)を見失うぞ」
 わかったようなわからない話だが、これ禅問答なのね。リーは少林寺の武僧だから、公案で修行僧が悟りに至る指導法をとっているのだ。いかようにも解釈は可能だけど、しいていうなら、目の前の事象にとらわれていては、物事の本質を見逃してしまう」ってところだろうか。
 たとえば禅問答の「隻手の音声」(両手を打つと音が鳴るが、片手はどんな音?)というやつなんかと同じ。固定観念を壊したり、視点をずらすための飛躍が求められているので、ここはわかっようでわからないでもいいのだ。

 さて、ブルース・リーは知ってるけど作品をちゃんと見たことがないって方。彼が主演の映画は数本あれど、リーの魅力、エンタメ度、劇伴等、総合的に考えてまずは「燃えよドラゴン」一択ですよ。
 リーが、ローパーが、ウィリアムズが孤島の要塞で繰り広げる伝説のアクション映画を見逃すな!
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