真魚八重子

あんのことの真魚八重子のネタバレレビュー・内容・結末

あんのこと(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

実話に発想を得ているといっても、小さな記事の断片から物語を生み出していったらしく、ある特定の女性がモデルなわけではない。コロナ禍で生活苦に悩む女性の告白などを、つなげて”あん”という象徴的な女性像を作り出している。

足の不自由な祖母、凶暴で娘にDV、モラハラを働く母の下で育ったあん。母は男を家にあげて、娘の前で売春をするような倫理観の壊れた女性で、あんは小学校で家庭環境をからかわれるのが嫌で不登校になり、文字がほぼ読めない。必要最低限の勉強もさせない親は、当然ネグレクトでもある。
あんは早くから母親に売春をさせられ、その客に16歳でシャブを打たれてシャブ中になる。ある日とうとう逮捕されるが、それがきっかけで薬物依存から抜けるための会合へ出るようになり、まともな仕事に就く訓練を始める。

弱者にとってコロナはやはり強烈な打撃だった。あんのような存在からまず、仕事を失っていく。勉強をする場所にも集まれない。支えがほしい状況でも人と会うことができない。

そして人には二面性があって、絶対誰にでも同じ振る舞いをするわけではないが、善悪を併せ持つのは確かだ。稲垣吾郎のニュートラルな存在感がとても効いていた。

クライマックスのあんのひとしきりの動作が、あらゆる感情を雄弁に示している。美しいベランダの光。
真魚八重子

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