umisodachi

ニューヨーク・オールド・アパートメントのumisodachiのレビュー・感想・評価

4.2



母親と共にペルーからやってきたティトとポールは、不法滞在者としてニューヨークの片隅で生活していた。ウェイトレスとして働く母親は白人の彼氏となんとか上手くやろうとしていて、彼らは居心地が悪い日々を過ごしている。そんなある日、語学学校にウクライナ人のクリスティンがやってきて、兄弟は一目で惹かれるのだが……。

ボーイ・ミーツ・ガールものというにはあまりにビターな移民物語。あらゆる形の搾取がこれでもかと描かれていく。

不法移民として生きる自分たちを「透明人間」に例える兄弟、治安の悪い地域でギリギリの生活を送らなければいけない環境、エキゾチックな女性を偏愛し、属性だけで相手を決めつける母親の彼氏(彼はペルー人はブリトーを食べないということすら理解できない)、娼婦として金銭的にも肉体的にも搾取され続けるクリスティン。

車に撥ねられても、暴力を受けても、不法移民だから病院に行ったり警察に行くこともできない。なんとかチャンスを掴もうとしても、立ち現れる現実はあまりに冷酷で呆然とするしかない。そんな彼らの状況を多層的に描きつつ、恋心に胸をはちきらせる少年たちの瑞々しい感情もしっかりと表現している巧みな作品だった。

見事だったのは彼らを一方的な被害者として描いていないこと。兄弟はあまりにも無自覚にクリスティンを搾取しようとし、クリスティンもまた(その報復としてなのか)兄弟を利用しようとする。社会は金持ちと貧乏人、男性と女性、強者と弱者と単純に構図化できるものではない。人間はある側面においては強者となり、ある側面においては弱者となる。しかし、あまりにも不利な立場に置かれている人間は確かにいて、彼らを無視することは間違っている。そういった社会に対する深い考察を感じることができた。

マリファナとゴミが交じり合ったあのニューヨークの街の匂い、マンハッタンと貧困地域の落差、そんなものがガッツリと感じられるリアルな映像も必見(なんでもゲリラ的に撮影を行ったとか?)。深刻な内容ではあるものの、希望を忘れないのも好き。おすすめです。



umisodachi

umisodachi