CHEBUNBUN

青春のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

青春(2023年製作の映画)
5.0
【ワン・ビン最高傑作!】
動画版▽
https://www.youtube.com/watch?v=lDvG37x39xk&t=21s

2023年のカンヌ国際映画祭コンペティションで話題となったワン・ビンの新作『青春』がついにシアター・イメージフォーラムで公開されたので観てきた。てっきり、『苦い銭』『15 Hours』そして本作からなる縫製工場3部作なのかなと思いきや、『青春』から始まる3部作とのこと。上映後のトークショーで他2作の編集が終了していることを教えてもらいテンションが上がった。さて、肝心な『青春』だが、ワン・ビン映画の中では最も観やすい内容のように感じた。体感時間が2時間半ぐらいだったのである。それを含めて語っていく。

本作は『苦い銭』に引き続き、複数人で撮影が行われている。日本からは前田佳孝が参加している。そのため、ワン・ビン特有の固定による長回しが抑制されており、編集によるリズムが生まれている。『苦い銭』がヴェネツィア国際映画祭で上映された際に、ドキュメンタリー映画にもかかわらず脚本賞を受賞したのだが、本作は『苦い銭』以上に脚本の映画となっている。

例えば、序盤では社長から金を受け取ろうと青年がひとりで交渉するのだが、ヌルりと逃げられてしまう。しかし、中盤で労働者たちが結託して社長に交渉を行う。しぶとく交渉した結果、わずかばかりの賃上げに成功する。労働者のドラマとして熱いものを感じる。また、夜な夜なゴミを落とす場面があるのだが、次のショットでその件について揉める部分がある。縫製工場で働く人を淡々と撮っているだけでなく、彼らの物語に歩み寄っているのである。

そして、そこに躍動感あるカメラワークが加わる。ミシンを扱っている青年が突然キレ始め、乱闘が行われる場面。カメラはスッと横を向き、傍観者の眼差しを捉えていく。目の前の争乱だけではなく、周囲を余すことなく捉えようとする気概がまた興味深いものがある。

ワン・ビンは「寝室」と「休憩室」に自然な対話があると、執拗にカメラをそこへ向ける傾向がある。『Father and Sons』ではカメラを固定し、延々と寝室の情景を捉えている。『鉄西区』では「休憩室」にカメラを向けて、そこで行われる賃金に対する愚痴を捉える。『青春』では、そこに「場」を追加し、人々の本心や生々しいやり取りを引き出している。それは、通りと路地の狭間である。工場長から金を受け取った若者は、借金等の清算を行う。それは通りと路地の狭間の絶妙なスペースで行われるのである。互いにどんぶり勘定で貸し借りを把握している。捲し立てるように価格交渉を行い、落としどころを見つけていくのである。この空間は映画の中で反復して描かれていくのだ。

このように、まったく飽きさせることなく中国縫製工場の実態を提示していく。荒々しくも切ない青春の一ページを覗くような傑作であった。
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