プレコップ

青春のプレコップのレビュー・感想・評価

青春(2023年製作の映画)
3.4
#アオハルかよ

というキャッチコピーのCMよりも「アオハル」を感じるドキュメンタリー。中国の子供服工場の数年間を、数人のカメラマンが追う。

セックス以外に娯楽のない田舎の学生のような日々を3時間半にもわたって観る映画。徹頭徹尾「胸を触った」みたいなことを発端にしたいざこざやイチャイチャが繰り広げられる。しかし、そこには低賃金の労働者たちの苛酷な環境がずっと前提にあって、ファストファッションを湯水の如く消費している我々にとって居心地の悪さがずっとある。

単価を上げるために1人が交渉していたのが、グループで交渉するようになって少しだけ向上する。そんな「ストーリー」がしっかりあるから、ただの日常を切り取る映像にもセンスが感じられる。ほかにも、片思いの子から耳を引っ張られる男の子が本当に痛みを引きずっているような素振りを見せたり、真夜中にゴミを散らかす連中が翌朝しっかりキレられたりするなどおかしくも惹きつけられる場面が多い。

しかし、3時間に感情の動きや歴史的背景を緩めることなく詰め込んだ「オッペンハイマー」と比べると、この監督としては短いようだがさすがに尋常でない長さを感じてしまった。
あと、映画の半分以上を占めるミシンの機械音はルー・リード『メタルマシン・ミュージック』を延々聴かされているような感じで、半分くらいのところで気が狂いそうになった。「映像の中で働いてる人たちもイヤフォンとかして耳塞いでるんだから」と途中で自分も耳を塞ぐところが何度かあった。

印象的なカメラワークや上手い編集は多いが、3時間半という時間を考えると濃度は薄い。ただ、冒頭に書いた通りで広告代理店が考えた青春像なんかよりずっと共感できる。井筒和幸「ヒーローショー」の後半や桑田佳祐「稲村ジェーン」、バリー・レヴィンソン「ダイナー」などの虚無感マシマシ青春映画の系譜に連なる"ドキュメンタリー"という特異性は体感する価値がある。




ところで、シアターイメージフォーラムに初めて行きました。これで、渋谷に現存する映画館は全て訪れたことになります。噂には聞いていた肌寒さを初体感しました。
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