ノラネコの呑んで観るシネマ

無名のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

無名(2023年製作の映画)
4.1
第二次世界大戦下の上海。
日本軍傀儡の南京の汪兆銘政権の工作員として働くトニー・レオンと、部下のワン・イーボーを軸としたムーディなスパイノワール。
南京と重慶の二つの国民党、日本軍、共産党の腹に一物ある複雑な人間関係がサスペンスを作り出す。
頻繁に時系列がシャッフルされ、今が何年で歴史のどの時点なのか、あえてよく分からない様に作られている。
少しずつ視点を変えた同じ時系列が繰り返されてゆくと、断片が繋がって全体像が見えてくる仕組み。
最終的には、本筋となっているのは、ごく短い期間の話だということが分かってくる。
スパイたちの騙し合いを重層化する面白い試みだが、残念ながら中国映画であるがゆえに、主人公たちの本当の立場は最初から読めてしまうのが難点。
だって国民党の中の更に裏切り者の、汪兆銘政権の中の人をスターが演じるって現在の中国の体制下ではあり得ないでしょ・・・
まあそういう事情があるので、無理してこんな複雑な構成を作ったのかも知れないが。
実際、ワン・イーボーの方はちょっと騙されかけたし。
色々政治的な制約のある国での映画作りは、本当に大変だ。
時代感のある美術や衣装は、クオリティが高く非常にカッコいい。