Taul

無名のTaulのレビュー・感想・評価

無名(2023年製作の映画)
3.0
『無名』チェン・アル監督は初。第2次世界大戦下の上海で暗躍するスパイの話というだけでアガる。アル監督は、時系列を変えたり、渋さとケレンを混ぜたり、オマージュたっぷりだったりする大胆な語り口。また、尺のためか、カットした部分も少なくないように感じた。ただでさえ当時の情勢の知識が必要だし、入り組んだスパイものなので、この語り口では分かりにくく、話し自体にノリ損ねてしまい、局面のスリリングさや、演出面の面白さをあまり掴めないまま終わってしまった。私がのんびり見すぎのたかも知れない。

それでも見どころは多かったし、本作は、ワン・イーボーとトニー・レオン、新旧のスターを愛でる映画という要素も強い。ワン・イーボーはトニー・レオンとは対称的で背が高く中性的で、現代的な魅力を感じる。演技はしっかりしていて、肌の白さがノワールの映像の中で異様に映える。トニー・レオンに関しては60代を迎え、そのキャリアや生き様が顔付きに刻みこまれているように見えた。本作と舞台が似たアン・リーの『ラスト、コーション』での冷酷さを連想したし、ウォン・カーウァイ作品での色気、アンドリュー・ラウ作品での男気、ホウ・シャオシェン作品での静謐さなどが蘇る。トニー・レオンのほうれい線に男の歴史を見る映画といってもいいくらいだ。
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