Kaji

無名のKajiのレビュー・感想・評価

無名(2023年製作の映画)
4.0
民国期の上海が舞台、激変する情勢の渦中にいたスパイ。
時は上海事変から真珠湾攻撃を挟み、終戦まで。もちろん日帝の残虐行為も出てくる。
史実ベースのフィクションなので、汪兆銘や中国国民党と中国共産党との関連、主に日中戦争あたりの知識をいれてから観たほうが無難。
知っている事が前提で進むし、時制が前後する仕掛けが肝なので。
 迂闊なことに私も世界史の窓ぐらい読んでいけば良かったのですが、前提知識が薄いまま観ました。それでも引き込まれましたが。


 セリフも少なく説明的な介添もない寡黙な映画でしたが、情感に頼らない冷静さと絵画的に構築されたシーンは圧巻。
調度のひとつひとつにまで気を配られた中で仕草や目だけの演技で物語る俳優が配置され、観てる方としては、当人たちだけが掌握している物事を推理しながら観ていた。
観客にはその人物が本当にその名であるのかさえ明かされないのだ。
ミステリアスな展開には、その時代にスパイが交差させ秘匿していた内幕の「見えなさ」を体験するようなスリリングさがあった。
時代の交差点にいた無名の人物たちの信念とメランコリーを堪能できます。


 上海語、普通語の中国語と日本語が駆使されていたそうで、言語も交差する深みが字幕では追えませんが、インタビューによるとトニーもワンイーボーも吹き替えなし、アクションもダブルなしだったそうで、YouTubeのメイキングを見るとテイクごとにコレオを確認しつつ、気遣い合う姿がありました。トニーは頭を打ったイーボーを庇いながら撮影してるし、イーボーはトニーに礼を尽くしていて、クライマックスのアクションシーンの迫力は真剣で誠実な撮影への姿勢があるからこそですね。



ますます円熟味を増すトニー・レオンと演技への集中力を感じたワン・イーボーの共演は贅沢で、ピシッと整えた髪や服装、身のこなしまで調整し、ダウンライトや地下、暗い室内にぼやっと浮かび上がる姿にはゾクゾクしました、、
トニー・レオンはほんっとーに渋い。
カーワァイ全盛世代なんでずっと好きですが惚れ直します。
重石のような重厚な雰囲気と軽やかさが同居していて。
ワンイーボー、あのラスト前のトラックからの煽り顔めちゃくちゃかっこよかったんだけど!
Kaji

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