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毒親<ドクチン>のきのレビュー・感想・評価

毒親<ドクチン>(2022年製作の映画)
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『オクス駅お化け』脚色の新鋭キム・スイン監督長編デビュー作。もともとは脚本だけを任されたらしいけど、キム・スイン自身も監督志望ときいて監督にも抜擢されたらしい。女性監督がどんどんとおもしろい作品を作っていてうれしいね。愛についての考察。愛は押しつけるものではなく、見返りを求めないもの。家族でも友人でも恋人でも、どんな関係においても配慮と尊重が消えた愛はお互いを傷つけるということを、親子間の悲劇的な結末をもって描く。と同時に、個人の経験にとどまらず、社会の不条理をも照射する。優れた語りとホラーチックな映像が、自殺の謎をただ単なる装置としての「謎」ではなく、立体的な深みにまで到達していたと思う。もう二度と観たくないが、すばらしい作品だった。

冒頭、ショッキングな自殺のシーンからはじまる。そこから、なぜ優等生だったユリが自殺をしたのか。その謎を刑事3人組が探っていく過程で、いじめ疑惑として浮上するイェナとの友情、担任ギボムや同級生から見たユリの姿。浮き彫りになってくる母ヘヨンの過剰な愛。ユリの一挙手一投足まで監視し、支配してしまうことを「愛」とするヘヨンに対してユリは、ヘヨンの愛が、「愛」ではないことに気づいていた。日本の宣伝でもすでに「過剰な愛」によって、少女が追い詰められると映画の装置となる「謎」をすでに明かしているけれど、その「謎」の解明ではなく、母娘による関係や、それが社会によってどうやって構築されたかということに焦点をあてていると感じたので、とても好感のもてる宣伝。映画は、だれも悪者には置かない。母ヘヨンも、ユリの親友イェナも、担任ギボムも、親の不在や憎しみ、世間から課される「愛」というものによって傷ついた人物である。ただ社会に当たり前のようにある「愛されていたら幸せだ」「あんな両親からでも愛されているだけ良い」という両親の無償の愛を「信じる心」が、「与えた愛を相手も愛として受け止める、その傲慢さ」に気づけなかったことが、「親の愛」という無償の愛として尊いものとして考えられる社会に向けて発せられるとき、すこしだけ社会は変わるかもしれない。誰でも、自分ではない相手をじゅうぶんに考えて尊重しなければならないこと。それが両親だから、とか、恋人だから、とかは関係ないよね。
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