れおん

戦場のピアニスト 4Kデジタルリマスター版のれおんのレビュー・感想・評価

3.3
1939年、ナチスドイツによるポーランド侵攻がはじまる。ポーランド最高峰のピアニストとして、ワルシャワの放送局にて演奏していたウワディスワフ・シュピルマンもまた、ユダヤ人であることから迫害を受ける。情熱の根源だったピアノをすて、身を隠して生き延びることだけを強いられる日々に、彼は身も心も蝕まれていく。

これが"リアル"の表現なのだろうか。人が人とも思えぬ程に、物の見事に死の狭間を彷徨い、死す。対称的に、音楽という芸術に対する敬意を示すかのように、美しく鮮やかに表現を収める。

フィクションの枠組みにおけるドキュメンタリー的な"リアル"さを残しつつ、映画作品としての典型的な物語たらしめるための"アンリアル"な脚色を施しているところに、個人的には気持ち悪さが残る。アカデミー賞最優秀脚色賞を受賞していることから明白、確かに"綺麗"な物語なのだが、深く考えれば考えるほど、そう簡単に気持ちの整理が付かないのが"普通"だと思う。

一方当事者にも正義があり、他方当事者にも正義がある。それぞれに守るべきものがあり、家族がいて、友人がいて、仲間がいる。統率する者の自己顕示欲と絶望の淵の集団心理で形成された偽りの世論が、いつしか正義となり、後戻りできない状態にまで膨れ上がる。気づいたときにはもう遅く、救いとなるのはやはり、表現の世界。一刻もはやく、世界に平和が訪れますように。
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