ワンコ

ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニーのワンコのレビュー・感想・評価

5.0
【神が宿る音/音楽の力⑤】

※ Netflix作品
※ アカデミー賞歌曲賞ノミネート

ドキュメンタリー映画として既に複数の映画賞を獲得している作品だ。

思いがけず素晴らしいドキュメンタリー作品に出会った。

ジャズの本場ルイジアナ州ニューオリンズ生まれで、ジャズ一家に生まれ、申し分のないジャズのバックグラウンドを有するバティステが、ジュリアードを経て、音楽界にデビュー、著名なミュージシャンとも共演し、多くのグラミー賞を獲得して、クラッシックの作曲にチャレンジする様を、白血病の妻スレイカとの二人三脚の生活で励まし合う姿を交えながら、曲を完成させるまでを描いた作品だ。
途中、ジェラシーやヒエラルキー、カテゴライズによる攻撃もあることが伺える。

二人のベッドで眠りに落ちる際の会話などは大切な宝物に触れた感じだ。

この「アメリカン・シンフォニー」は、こうしたドキュメンタリーでもなかなか踏み込み難いプライベートや、難病と闘うスレイカの病状や苦悩、彼女とのコミュニケーションなど裏の裏も見せながら、バティステとスレイカの人物像や、彼らの勇気と創造力の素晴らしさを充分過ぎるほど表現している。

「必然だから音楽を愛す」

冒頭のジョン・バティステの言葉だ。

これに続く映画の冒頭の彼の言葉は彼の音楽に対する立ち位置も示している。

きっと、時代や定義、ジャンルといったカテゴリーや場所を超えたところの音楽をバティステはシンフォニーとして目指しているのだ。

映画の途中、ピアノから音を出すまでの長い無音の瞬間を捉えた場面がある。

きっとこれも音なのだ。
こんな感覚はMJの演出にもあった。

あらゆるものを内包する。だから、シンフォニーになるんじゃないのか。

きっと人生で苦悩して身を屈め力を蓄え、嵐が過ぎ去るのを待って立ち上がる前の瞬間もそれぞれの大切な人生なのだ。

「誰もが旅人」
スレイカの再入院や闘病。
寛解するも辛く苦しい化学療法。
更に前進することがスレイカの生きる力を呼び起こすと信じているかのように楽曲の完成を目指す。

何かを変える力。

アメリカとは何か。
全てを内包する試み。
古典的なクラッシックも、ジャズも、アメリカン・インディアンの声も音も。
それこそがアメリカだから。

「アメリカン・シンフォニー」

これはこれまでの伝統的なシンフォニーの概念をを打ち破るとか打倒するといった類のものでは決してない。

新たなシンフォニー。
「アメリカン・シンフォニー」

アメリカを羨ましく思える作品だ。
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