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パーマネント・バケーションのKKMXのレビュー・感想・評価

4.0
 先日、地元に戻る用事があり、実家に寄って昔購入したジム・ジャームッシュの初期3部作DVDボックスを持ってきました。

 良い機会なので、ジムジャーの初期3部作の中で唯一苦手だった本作を改めて鑑賞してみました。昔観たときはなんだコレ?って感じでしたが、今観ると味があり、グッと感じるものがありました。

 ストーリーと呼べるものはなく、アロイシュスという16歳の少年がニューヨークをウロウロするだけのガーエー。オシャレ・ヒップと言えなくもないですが、ちゃんとシリアスな思春期っぽい作品で、当時学生だったジャームッシュの心境も映し出しているようにも感じる内容でした。


 アロイシュスは家族もおらず、女と同棲してますが関係は冷めた感じです。彼の生家は戦争で廃墟になっているとのこと(!)。戦争の雰囲気は、常に鳴り響いている不気味な鐘の音とかヘリっぽい音とかで伝わってきました。
 また、アロイシュスが彷徨う中で出会う人たちは狂気に侵された人が多いです。アロイシュスの母は発狂して精神病院におり、彼が訪れても気づかないほどでした。
 アロイシュスの行動も突飛で、突如車を盗んだり、船に乗って海外を目指したりします。

 そのため、本作は全体がマジックリアルな作品なのかも、と連想しました。アロイシュスという大人と子どもの境界にいる存在の物語。それは、卒業制作で本作を撮った、学生と社会人の狭間の存在であったジャームッシュそのものかも知れないなぁと感じてます。
 全体は空虚で不安定ながらも本作のテーマ曲である『オーバー・ザ・レインボー』が一筋の希望として鳴り響く。エンディングの構図も晴やかで、実はかなり熱い作品なのではないか、と感じています。

 やがてジャームッシュは35年くらいかけて『パターソン』に至るわけですが、ジャームッシュははじめからニヒルでヒップなだけではなく、人間の奥にある真っ当な熱を描く人だったなぁ、との感想を抱いています。




【追記・終盤のドッペルゲンガーについて】

 アロイシュスは終盤、パリに向かう波止場で自身とそっくりの若者と出会います。これは彼の中にある、もうひとりの自分との出会いなのかもしれないと感じました。これは彼の影というよりも、光なのではなかろうか。
 影を生きてきたアロイシュスが、光に向かって生きたいと思った瞬間に、ポジティブなアロイシュスと交錯したのではないかと感じたのです。
 そしてアロイシュスはオーバー・ザ・レインボーに祝福されて新しい世界に旅立っていきます。

 ドッペルゲンガーと出会った人は死ぬと言われます。これは象徴的な意味であり、おそらく死と再生を意味していると感じます。古い自分が死に、新しい自分になる。アロイシュスはドッペルゲンガーと出会い、彷徨える魂を持った古いアロイシュスが死に、希望の光を抱いて生きる新しいアロイシュスに生まれ変わったのだと思いました。
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