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Now and Then:ザ・ラスト・ビートルズ・ソングのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

 ビートルズが今作るとしたらこうした曲調のこういった歌詞になるだろうなと思わされる最新曲。しかし元はジョンがポールに宛てた曲の一つだし、それをビートルズとして作るプロジェクトはジョージが生きてる頃にあったわけで。今まさに作られるべき曲であることは、運命の巡り合わせみたいなのでしか説明できない。

 強いて言えばビートルズという逐一音楽を革新させたバンドが、再び技術革新に呼び戻されたということか。

 結構昔の映像が不意打ち的に入ってきて、お互いの絆が過去現在を越えて結ばれているので、泣ける。長い人間関係自体珍しいから起きる編集の成果であるのと、またビートルズ内のコミュニケーションの、あの屈託のない可愛げが絆を目に見えて確信させる。

 あとはイエローサブマリンがところどころ引用され、ジョンの声を分離するシーンではイエローサブマリンというファンタジー的描写がまさに現実に起きていることの衝撃が立ち現れる。ここで思い出してほしいのが、イエローサブマリンの映画自体、ビートルズは声を当てていないのだ。あれはそっくりさんが担当したものなのだ。現在、AIによって声色、音色の特権性が奪われる危惧が起きており(https://youtu.be/gXpV8W9dH5Q?si=q8CVsUpIf95OFaM8)、この間もテイラースウィフトが「アイドル」を歌った動画も見た(https://youtu.be/R6PIXuSjpFo?si=XO4bmRl7JGs9uqRB)。しかし、AI云々以前にビートルズは自分そっくりさんを公式映画として出したりしてたのだった!ビートルズ、早すぎる、声の特権性とか軽々捨ててる…笑(意図せず副産物としてではあれども、了承してるわけだし)。

 ちなみに今作の監督ピータージャクソンが同じく手がけたmv(彼自身はmvではないと言う)が一番イカれてて、"今現在"の映像にバンバン過去の人物が入ってくる。合成とはわかりつつも、流石に技術も進んで過去と今の映像の質感は限りなく近くて切り抜かれた人物との境界線は接近してきている。亡くなったジョンとジョージが出るだけでなく、若いリンゴやポールも出てくるのが面白い。二人への哀悼だけでない、過ぎ去りしビートルズの回想、いやもはや走馬燈である。ビートルズ好きが最後に見るに相応しい映像だ。ちなみに若ジョンがすごくちょけてて良いけど、ちょけ過ぎでは笑。

 曲は、なんだかとても時代を聴いてるなぁと思わされたが、「映像の世紀」のテーマ曲っぽい重さと似たものを感じたからか。また、老いたポールとリンゴと、若くして死んだことで若いままのジョンとのコーラスで如実にその年齢のギャップが出る試みも面白い。ABBAも早いけどね、自分らの若い頃のクローンを作って歌ったりして。若さと老いとの相剋は、しかし時に残酷な風にも映る(だってだいたい軍配は若さが勝ち取って尚更老いがかわいそうに見えるじゃないか)。

 漫才じゃないけど、自分は芸術はそこから醸し出される"人(にん)"で鑑賞してるかもしれない。今回の曲としてのレベルで言えば、それはもちろん全盛期に劣るだろうが、そんなことで評価する曲ではない。あとジョンの元々のdemoの良さとの比較も多くされてる。自分は、作り手あっての作品で、作品単体として切り離して冷徹に評価することはできないと思うのだ。消費行為=評価になることは間違いである。

 こうした作者を軽んじた消費が行き着いた先が、仕舞いには良曲量産マシーンことAIとかになるわけで。というか、もう作品の背景に"人"はいらないのか。そういう時代の切り替わりが、"人"としての最後の残滓が、この曲だったのか。
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