シズヲ

神の道化師、フランチェスコ デジタル・リマスター版のシズヲのレビュー・感想・評価

4.0
カトリックの修道士であり聖人“アッシジのフランチェスコ”とその弟子達の逸話をオムニバス的に描く。ネオレアリズモの旗手ロベルト・ロッセリーニ監督の代表的作品。作中の登場人物はいずれも現地の修道士などが演じているらしいけど、皆自然な演技を披露している。“己自身に打ち勝ち、屈辱や苦難を耐え忍ぶ”という“完全なる歓び”が全編に渡ってフランチェスコ達の信仰を示すテーマとして描かれる。

「修道士の映画ということもあり堅苦しい内容なのだろう」と構えて見たけど、いざ蓋を開けてみると案外ユーモラスな内容で面食らう。何だか登場人物の挙動がやけに滑稽というか、それでいて何処か愛嬌に溢れている。画面上でよくドタバタと走り回っている修道士達の絵面はある意味象徴的で、シスター・キアラを出迎えるためにウキウキで準備を進める彼らの姿には微笑ましさすら感じる。ジネプロ修道士&ジョヴァンニ爺さんはれっきとしたコメディリリーフであり、彼らの面白さや破天荒さはある意味で本作の中核を成している。鎧の着脱に手こずる暴君ニコライオなども妙に憎めない味がある(あのへんの下り、どんちゃん騒ぎからの人間縄跳びで笑った)。

エピソードごとに結末も含めたあらすじが言及されるにも関わらず、思わぬユーモアの連続なので不思議と予想斜め上の楽しさに満ちている。そして白黒映像による本作の格調高い撮影、やはり演出や編集も相まって非常に秀逸。平野のロケーションやロングショットを中心とした画面構図が常にバシッと決まっている。豪雨に晒される荒涼としたオープニング、ハンセン病の男との出会いで泣き崩れるフランチェスコを捉えた幻想的ショット、雪が降り注ぐ中で“完全なる歓び”を説く神秘的な絵面。視覚的な美しさが幾度となく印象に残る。

コメディリリーフ的存在だったジネプロが最終的には暴君とのエピソードで“完全なる歓び”を体現するように、本作の宗教性自体は基本的に一貫している。フランチェスコ一行は終始地道に清貧を貫いており、その信仰心の結実としてあの長閑なユーモアへと至っているように見える。彼らの愚直さ(そして滑稽さ)は敬虔さの裏返しとして描かれる。そういう意味で本作、ある種の万人受けに落とし込むことを果たした宗教映画かもしれない。
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