KKMX

ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ デジタルリマスターのKKMXのレビュー・感想・評価

3.7
 マーリー師匠のジャマイカにおけるラストライブを映画化……に見えますが、このドキュメンタリーは『レゲエ・サンスプラッシュ』という、数組のグループのライブ・パフォーマンスを収録しつつ、レゲエのバックグラウンドを伝える作品です。なので、マーリー師匠のライブは後半のみ、しかもダイジェスト的編集なので、109分こってりとマーリー師匠のライブを観るつもりで足を運ぶととんだ肩透かしに遭います。

 ただ、レゲエのドキュメンタリーとして観ると、結構面白かったです。思想的な背景が端的にわかりやすく語られ、また当時のジャマイカの風俗を垣間見ることができて、なかなか旨味がありました。

 ライブ映像の間隙をついて挟み込まれるレゲエについてのモノローグでは、繰り返しレゲエは貧困から生まれた音楽で、闘争の音楽であることを伝えます。そして、そのルーツは奴隷貿易で、ルーツであるアフリカを重視し、エチオピア皇帝を神と讃えるラスタファリズムが重要な思想として鎮座していることを語ります。この作品における現在(79年)のジャマイカ政治は、まったく市民のことを考えていない、と糾弾し、怒りを表明します。
 奴隷ルーツの黒人音楽ということでレゲエはブルースに近いかな〜と思ってましたが、どちらかというと嘆きや痛みのイメージが強いブルースよりも、明確に闘争を掲げるレゲエはパンクに近い。ジャマイカ移民の多いイギリスでは70年代後半にパンクが勃興しましたが、彼らに大きな影響を与えているのはレゲエであり、このドキュメンタリーを観るとより納得感がありました。

 ガンジャ(大麻)の話も興味深かったです。ジャマイカでは当時ガンジャは違法で(現在は不明)、しかし生活のために人々はガンジャを丘で栽培しているそうです。何故丘なのかというと、平地だとすぐにサツにパクられるからだそうです。政治が機能していない感じは、師匠の『ワン・ラブ・ピース・コンサート』で、敵対し合う政党のボス同士が手を握り合う場面で、2人とも白人というのがそれを象徴してます。この当時は植民地支配の延長でしかなかったのでしょうね。
 また、ラスタは丘でコミューンを作って生活しているそうです。レゲエ・ミュージシャンの多くはドレッドヘアで、ジャマイカ人はみんなラスタなのかと錯覚しますが、まったくそんなことはなく、結構マイノリティっぽかったです。『ハーダー・ゼイ・カム』でも山に行くとラスタが主人公アイヴァンを匿うシーンがあり、人里離れてこっそり生きている存在みたいです。

 途中、ガチのラスタ3人衆が登場。パーカッションを叩きながら、みんなイイ顔してラスタを熱く語ります。自給自足で電気も否定、「今のミュージシャンたちは電気なんか使ってフェイクだぜ!本物のラスタは太鼓だけで伝わる」と間接的にマーリー師匠をdisり、見事なセッションを聴かせてくれました。このシーンがなんだかんだと印象に残ります。
 

 とはいえメインはライブ映像。音響や映像は時代相応な感じではありましたが、歌詞に対訳がついていない。結構メッセージを重視するミュージシャンが出ていたので、和訳は付けて欲しかった。

 前半はサードワールド、バーニング・スピア、ピーター・トッシュが登場。サードワールドはレゲエ親善大使と呼ばれるグループで、よりポップな方向性を持っており、70年代のソウルみたいな音でした。
 バーニング・スピアは本質的なレゲエの人。「彼は恋愛の歌は歌わない」みたいな説明も入る。音楽もガチガチのルーツレゲエで、ポップさゼロ。説得ありますが、何せ和訳がないのでスピアさんのガチメッセージを受け取ることができず、やや不完全燃焼。
 マーリー師匠のかつての盟友、ピーター・トッシュ。何故かいかりや長介みたいなハッピを着て、背中には『一番』の文字。しかしカラーリングはラスタで、どこで手に入れたのか気になるところ。トッシュというと『解禁せよ!』のイメージが強く、実際本作でも「トッシュはマリファナを解禁せよと歌っている」と説明がついていました。しかし、歌詞が分からずこちらも不完全燃焼。

 後半はマーリー師匠のライブ。ルーツっぽい曲の中にメロウな曲を挟み込むセンスがポップで、世界的にブレイクしたのも頷けます。『ヒポクリッツ』という曲は知らなかったが、ウェイラーズ時代の曲なんすね。ステージではちびっ子がダンスしており、結構カオス。師匠の子どもかな?何せ11人いますからね。また、ステージと客席にあんまり段差がないのも印象的。

 師匠も歌詞が重要なミュージシャンなので、対訳がないので今ひとつグッと来ない。自分はかなり歌詞を重視するタイプで、好きなミュージシャンでも歌詞の対訳がつかないライブ映像はまったく観る気がない。例えば、自分にとって神とも言えるボスことブルース・スプリングスティーンですが、ネトフリにあるライブ映像は対訳が無いため観ません。で、パールジャムの『ツアーリング・バンド』というDVDは歌詞の対訳がついており、これで俺は完璧にパールジャムファンになりました。
 近年のライブドキュメンタリーにはほぼ対訳がつく印象があり、その意味では本作非常にフラストレーションが溜まった。ストーンズとかは『無情の世界』とか以外は大したことを歌ってないから対訳無くてもいいんだけど、師匠は歌詞でしょ!また、トッシュやバーニング・スピアも対訳ついていたら500倍はアガッたはず。特にスピアさんは個人的に馴染みがないので歌詞を知りたかった。

 
KKMX

KKMX