富樫鉄火

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2023/24 ロイヤル・オペラ 「ラインの黄金」の富樫鉄火のレビュー・感想・評価

4.0
#197
(完全版レビューは、ブログをご笑覧ください。http://togashitecca.blog.fc2.com/blog-entry-303.html?sp)

最大の特徴は、全4場を通じて、智の女神エルダが常に舞台上にいて、一部始終を「観ている」設定である。つまり物語全体が、エルダの「目撃談」なのである。これによって、最終場面でどのような効果が生まれるか、《指環》ファンの方は、もうおわかりだろう。また、なぜ後日、ヴォータンがエルダとの間に9人ものワルキューレ(戦さ乙女)をもうけることになるのか、説得力も増す(エルダが産んだのはブリュンヒルデ1人との見方もあるが)。

さらにいえば、コスキーは、最終作《神々の黄昏》を見通していることもまちがいない。エルダひとりの扱いで、本作を、つづく3作の壮大な“予告編”にしてしまった。うまい演出だと思う。イギリスの《指環》マニアは、これから4年間、ROHに通わねばならない。

なお、このエルダ役については、あえて述べないが、おそらく観た誰も、かなりの“衝撃”を受けるであろう。全出演者のなかで、ただひとり、2時間半、出ずっぱりである。この役は日によって交代するが、今回の映像で“演じる”のは、82歳のローズ・ノックス=ピーブルス。映画『TAR/ター』で、ケイト・ブランシェットとおなじアパートに住むエレノアの母を演じていた、あの老女だ。もちろん、声はプロ歌手である。
富樫鉄火

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