すしお

エスのすしおのレビュー・感想・評価

エス(2023年製作の映画)
4.5
あらすじのとおり、映画監督「染田」が逮捕された後の仲間たちが、
「染田」につにいて繰り広げる言葉のやりとりが中心の会話劇です。

「染田」本人のセリフはありませんが、会話の大半は「染田」についてなので、
登場人物は①不在として存在する「染田」と②仲間たち、ということになりましょう。

上映後しばらくは、演劇っぽいというか人工的な会話のやりとりに
若干違和感を感じましたが、役者さんたちの熱演もあり、
結局110分間飽きることなく会話に引き込まれました。

先述のように、「染田」がその不在によって逆に際立つ構造になっているため、
途中までは、太田監督が「染田」に投影して自分語りをしたいのかと誤解しました。

しかし、太田監督が会話のやりとりを通して描きたかったのは、
自分のことではなくて、仲間たちのこと、社会のこと、彼らの中に張り巡らされている
人間関係の網の目のようなものなのだと途中で理解しました。

「染田」の不在は、太田監督が自分語りをしたいからではなく、
自分の視点で語ると決意したことの帰結なのではないでしょうか。

作品の中で「見える人にしか見えないチケット」の話が出てきます。
これは示唆的なメタファーと感じました。個別具体的な個人の体験を下敷きにした
本作品が多くの方の共感を得られるか、諸氏のご判断によると思いますが、
見て損はないと思います。
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