よしまる

遠い一本の道のよしまるのレビュー・感想・評価

遠い一本の道(1977年製作の映画)
3.7
 名女優の左幸子さん。テレビでお見かけしたことはあれど、映画は観たことがなく、この唯一の監督も手がけた作品がお初。女性らしさというものがあるとすれば、この力強く骨太な映画もまたそうなのかもしれないと思った。というより、深く感銘を受けた。もちろん昭和の母の演技も素晴らしい。

 長らくソフト化されていなかったそうで、こうした名作をサブスクで観られるのはありがたすぎる。昭和を知ってる世代としてはなにもかもが懐かしい。

 冒頭、井川比佐志演じる主人公による本格的「ちゃぶ台返し」が観れる。寺内貫太郎もびっくりの、こんな鮮やかな技もそうそうお目にかかれないw

 娘役のうら若き市毛良枝が連れてきた彼氏は七三分けの長塚京三。父親の井川比佐志が、国鉄の保線を30年勤め上げてきた祝いの日に自分そっちのけで結婚話で盛り上がる家族に激昂する。

 当時の国鉄の抱えていた機械化の導入や組合によるストライキなどの問題をドキュメンタリーのように克明に捉えると共に、顔も見たことのない男のところへ国鉄に勤めているというただそれだけで嫁に来るような、今では考えられない結婚をした夫婦役の井川比佐志と左幸子の連れ添った半生を過去と現在をかき混ぜながら描く。

 北海道の方の方言は何を喋ってるかまったく理解できず、歌を歌いながら保線工事をしたり、女たちは働く男たちのために家庭を守り炊き出しをして自分を殺して尽くしたり、現在とはおよそかけ離れた風景を満喫できる。誰が悪いわけでもなく、誰もが必死で生きていて、置かれた環境を当たり前のように受け入れていた時代。

 昔が良かったと言う気は毛頭ないのだけれど、では今の世の中が良いのかと言われるとそんなことはなくて、やはり失われてしまったものの方が大きいのではないかと思ってしまった。

 鉄道に興味のある方ならおそらく垂涎のシーンが満載なのだろう。自分は鉄分が少なめなので感激とまではいかないものの、蒸気機関車が走る景色は変えがたい良さがあり、そんな四季の情景を映し出す大ベテラン瀬川順一のカメラは必見。特に終盤の軍艦島は、まだ生活者のいたときの名残が生々しくなかなかのインパクトだ。

 若い頃に観ていたらこんな融通の効かないオヤジめんどくせえ〜って一蹴していたことだろう。だが今は少しわかる。家族には言えない苦労や想い、そして孤独が。