とうがらし

遠い一本の道のとうがらしのレビュー・感想・評価

遠い一本の道(1977年製作の映画)
3.7
ベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞した経歴を持つ、日本映画屈指の名女優・左幸子の最初で最後の監督作。
日本で田中絹代に次ぐ、2人目の女優監督。
今でこそ、女優監督は珍しくなくなったが、当時の映画監督は男性社会だったことを考えれば、女性が監督するには並大抵のことではなかった。

フリーランスで活動しながら、納得のいくものでないとオファーを引き受けないのポリシーで、演出や作品の解釈について徹底的に議論する女優であったらしく、実際に出演した作品は一癖も二癖もあるすごい映画ばかり。
彼女の脚本や演出の見る目が確かであったことが、本作をみても分かる。
映画ならではの語り方を熟知していて、初監督作で既に監督独自のスタイルを確立している。
主張が前面に出る点がややマイナスだが、それを差し引いても、語り尽くせぬ魅力がある。
特に、映像と音声との分離による相乗効果。
編集よりも前の段階、あらかじめ脚本や演出時に、その効果を狙って組み込まれているのではないかと思われるシーンが随所にみられた。
画もところどころバッチリ決まっている。
当時の社会における男女の違いを、”線路をまたぐ”や食卓の風景などの動きで表現している。
記念撮影する人の前を掃除するおばちゃんは意図的で笑える。
女優だけでなく、監督としても、これほどの才覚があったとは…知らなかった。

国鉄労働組合(家族会)の協力で作った作品。
給与の手取りが12万円の時代に、組合からの資金提供が当時1億円というのだから相当な額。
でも、国鉄にも、労働組合にも牙をむいた、かなり尖った内容でビビる。
「明るい未来」か…原発事故の町にもあった謳い文句…。

唯一の監督作になってしまったのは残念。
ドキュメンタリー要素もあり、ドキュメンタリー監督として十二分にやっていけたのではないだろうか。
土本典昭監督の国鉄PR映画「ある機関助士」と対をなす作品と感じた。
もっといろんな作品を監督して欲しかったなあ。
ラストの軍艦島は圧巻。
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