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遠い一本の道のkossのレビュー・感想・評価

遠い一本の道(1977年製作の映画)
4.1
国労、動労はかつて組合の代名詞だった。今では信じられないが、昭和の春闘ではストライキで国鉄も私鉄も停まった。この映画で胸に残るのは、失われてしまった労働の意味とその変遷が、リアルに描かれ残されていることだ。

左幸子の唯一の監督作は、感情と物語を希薄化して冷静な視点が保たれる。夫婦生活や娘の結婚はサイドストーリーで、主軸は労働者と組合に置かれる。女たちは妻を越えて女たちの組合活動と国労の援助者という役割を与えられ、内職で編み機を使い、保険の外交を行う労働者なのも女流監督の左の卓見である。

線路脇の官舎、インタビュー音声、永年勤続の表彰式と夫婦出席者、ツルハシによる保線作業と労働歌など実際の国鉄職員を使った映像を加えるセミドキュメンタリーな手法が、効果を発揮している。また、フィックスの画面を走行する電車、歩いて行く人々、雪景色と電車といった優れたショットも力強い。

ラストに訪れるのが国が勧めた石炭産業の廃墟の端島。娘の結婚相手の父親が落盤事故で半身不随なのが保線作業の片足切断と重なる。その後、国鉄はJRとして民営化され、端島は軍艦島として世界遺産になる。

労働とは何なの。どこから発生するのか。労働者とはいったい誰なのか。昭和の時代まての産業構造と問題点、さらには国家と労働者の関係を明らかにする貴重な映画だと思う。
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