anemone

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2023/24 ロイヤル・バレエ 「マノン」のanemoneのレビュー・感想・評価

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こんなにも、甘美で刹那的な踊り…
リフトと重力、惰力を感じる(落ちる)動きを組み合わせた複雑な振りが、風に靡く古布のよう。
深く不安定な感情に引き摺り込み、マノンと共に沼地に沈めるようなバレエと、メロディックで切ない音楽。
18世紀パリの、退廃的な美しさと落ちれば終わりの貧困の穴
この作品の何もかもに溺れたい。哀しみや強欲さや醜さにも。

マノンは、贅沢も、物質的な豊かさも、すべて手放した。
若くて美しいだけでは、男性に搾取されてしまう。お金だけには囚われてはいけない。
すべて正しいのだけれど、私はマノンがそのことに気づいたのは、愚かな選択をしてきたからだと思う。搾取されることは肯定できないけれど、若い女の子が、目を逸らさずに汚い世界を見て、自分で過ちを犯し、そして初めて気づくのだと思う。

最も自分と重なったのは、マノン。
マノンは、"自分のことが分かっていない"愚かな人間。そのイノセントさが悪意を寄せ付け、過ちに導く。
好きなのはレスコー。
生きることへの欲が強く、汚い人間だから。


1幕
汚い世の中を嘆くような少年の眼差しから、傲慢さと卑しさに移り変わるレスコーの切り替え力。
岬の兄弟は、マノンを元にしているのではないかと思った。

リースの長い手足と長身を存分に使った踊りは、優美で操り人形のよう。伸びやかなアラベスクと、詩的な立ち振る舞い…

甘美で切ない、メロディックな音楽に引き摺り込まれる。パドドゥで最高潮に達する。
浮遊感がありつつ、プロムナード、アティチュードの軸足はしっかり伸びている。
オシポワのポワントの繊細なステップも、
危うさと初々しさを演出している。
切なさ。自分すらわからず、地に足がついていないからこその純真さ。

〜衣装語り〜
マノン
①ペールブルードレス、キャラメルベージュコート+シャンパンゴールドベスト
少女メイク
②ピンクベージュチュチュパステルピンクストラップ、編み上げ、レース
③くすみピンクベルベットガウン白ファー、黒リボン、黒地にビジューチョーカーたすドロップクリスタルネックレス

娼婦
①ピンク(薔薇かざり、ゴールドレース、バルーン)
②くすみグリーン(白レース)
③ピスタチオ、オレンジ、バーガンディ(カラーリング)

男性ダンサー
①レスコー
白セットアップ
②G.M
オレンジピンクセットアップ、シルバーバックルシューズ
③乞食(カラーリング)
ベージュ、グリーンベージュ、アイボリー、ブラウン

舞台美術
花の布地の椅子
ゴールド馬車


2幕
豪奢で退廃的な舞踏会シーン
煌びやかさと人間の醜さが交錯し、マノンの官能的な魔力も最高潮に達する。

リース・クラークの、切ない表情
回を増すごとにドラマチックになり、ダンサーの演技力に拍車が掛かる。
レスコーの欲望や強かさは生きる強さだと確信した。
G.Mの傲慢で高圧的な振る舞い
あざとさがありつつ、傍若無人な

パ・ド・ドゥは、より燃え上がる愛と信頼を表現している。
曲線的で、官能的なクラシックとは違う動き、複雑なステップ。

マヤラ演じるレスコーの愛人の、大胆かつ優雅な動きにもうっとり。妖艶で女性的かつ、立場をわきまえた立ち振る舞いに、娼婦として生きる女性の強さを感じた。

〜衣装語り〜
バーガンディ、オレンジ、ペールオレンジ、ブラッドオレンジを基調としたオータムカラーリング。
ドロップイヤリング+ビジュー重ねネックレスチョーカー+ビジューヘッドドレス
+ドレス(黒リボン、ゴールド刺繍)デザインが多め。

マノン
黒いチュール、レースドレス、ゴールドフラワー刺繍とリボン、ゴールドかチューシャ、黒ファー、ゴールドフリルオレンジフリンジマント

男性ダンサー
①デ・グリュー
白地にシャンパンゴールドベスト。ジャケット。黒ライン、花柄ステッチ、黒タイ
カーキラッフルコート
②G.M
黒地にゴールド刺繍+赤ベスト
バーガンディセットアップ、ゴールド刺繍、黒チョッキにイエローゴールドの花柄刺繍

レスコー愛人
ピスタチオグリーンドレス、カーキドレープ、ゴールド刺繍、チュールレース、リボン

娼婦
黒レース+オレンジチュチュ
ブラッドオレンジチュチュ+ペールオレンジパニエ
煉瓦色そう刺繍ゴールド刺繍ドレス、ゴールドベール


3幕
ニューオーリンズの港の鬱屈とした、じめっとした湿気を感じる。

髪を短く切られ、くすんだグリーングレーの衣装を着た娼婦たちの、モダンな動きの入ったゴールドは、まるで沼地のジゼル。

オシポワの、目が虚で、肩を前に出した歩き方が悲劇的で、魂がこもっている。
誰もを魅力する美少女が、薄幸の精神疾患患者になって行く様子は、痛々しい。
沼地で迎える最期の時、マノンの重力はより増す。
繊細な足捌きと豊かな感受性で、素晴らしいマノンを見せてくれた。
リースが、腕を取り抱き抱えるときの優しさ、抱き合うときの愛おしさ、本当にマノンに惚れているようだった。
ラストのリースの表情も、圧巻。

〜衣装語り〜
娼婦
①くすみグレーグリーンのドレス(スクエアネック、チュールスカート)
②マノンは、キャミで胸元にチュール、破れ加工のトップス、ギザギザミニスカート2段+バーガンディスカート

貴婦人たちの、サーモンピンクのドレス、白いレース傘、白リボン、レース。ピンクリボン、白薔薇の麦わら帽子

男性ダンサー
①リース
カーキのベスト、グレーのタイツ、ダークグレーのブーツ
②看守
ペールブルーにゴールド金具のジャケット

女性たち
ピンクブラウン、ピンクベージュ、ペールグリーン、くすみブルードレス(ドレープは、ストライプなどエプロン風)、スカーフ
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