上西雄大監督主宰の映像劇団テンアンツのファンでもあるので、いきなり2回鑑賞となった本作、製作は4年前ということで『ひとくず』の製作とほぼ同時期のようだ。
コロナ禍の影響もあって、完成、公開が伸びたようで、ようやくこうして劇場公開となり鑑賞することができた(確かあと2、3作ほど公開を待っている作品があるようで・・・)のは、ファンとしてはなにより嬉しい限り。
ヒロインの玲(清水裕芽)は22歳だが小柄な容姿ゆえ少女に見える。軽い知的障害があり母・梨加(徳竹未夏)と二人暮らし。
梨加は玲の障害年金をパチンコに注ぎ込み、玲へは手料理もせずコンビニのオムライスを与えている。
しかも、家賃が滞納しているとなれば、玲の小遣いから支払うような毒親だった。
お金に困窮した梨加は玲に働きに行くよう迫る。
そこで玲はデリヘルのアルバイトに応募してしまう。
玲を演じる清水裕芽さんは、テンアンツ創設からの劇団員さんで、主宰の上西監督作品や昨年上演された舞台版『ひとくず』でもヒロインを熱演した俳優さん。
本作では知的障害もあるキャラということもあり、その行動や仕草などで監督と話し合いながら演じたということで、今回もその熱演によって玲というキャラがじつに生きて伝わってきたと感じた。
それを受けての母親役の徳竹さんも、安定した毒親ぶり(というのも変だが)で、この共に生きづらい母子の姿にリアリティを与えている。
これによって他の上西作品に比べると、シリアス度が高いように感じたが、それを緩和させるのがケースワーカー役の古川藍さんと玲の主治医である精神科医を演じる上西監督。
この二人は今回は脇に回って、物語を支えている。
古川さんはこれまでの作品では、ケースワーカーに支えられる側の役が多かったが、今回は逆ということで新鮮に感じたし、いつになくコミカルなキャラを演じた上西監督は、サブキャラとはいえやはり要所要所で本作のテーマ性を語るシークエンスで、重要な役回りを務めてらっしゃった。
玲が応募するデリヘルクラブのオーナーを怪演した萩野崇さんは特撮ヒーローファンにはお馴染みの方のようで、これがまたリアリティがあって(笑)
また玲の理解者となるデリヘル嬢を好演された華村あすかさんといった演者さんたちも、上西ワールドにいい化学変化を与えていたように感じる。
上西作品常連の川人千慧さんの劇伴は、パーカッションを多用したユニークなもので、ともすれば重くなりがちな本作のイメージを中和させているかのようで、興味深く聞き入った。
かと思えば、上西監督のキャラのように、要所要所でエモーショナルな旋律が情感を湛えて流れてくるところも良いなぁ、と。
最近、生きづらいキャラを主人公とした作品が多いように感じる。
LGBTQ、ヤングケアラー、障害者等々、それぞれの作品がそれぞれに真摯な姿勢で描かれていて、観るたびに感じ入ってしまうのだが、上西監督作品も基本はエンターテイメントではあるが、メインとなるテーマは人間を描くヒューマンドラマだ。
本作も清水裕芽さんをはじめ、演者さんたちの素晴らしい演技でもって、社会の不条理に憤りを感じつつ、最後には熱い感動で物語を締めくくる、まさに上西ワールドの基本形をあらためて観せてもらったように感じた。
多くの方の心に残る作品であることを祈る。