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野性の葦【HDリマスター版】のotomisanのレビュー・感想・評価

4.1
 高校生四人、女が一人であとは男、これでどんな人間関係が成り立ってゆくだろう。それを左右する、とまで言わないが彩るのはその現場がフランス南部、パリとは歴史的な確執を下地に残していそうなトゥールズ近傍の田舎町で1962年からの一年、アルジェリアを手放さざるを得ない状況という遠景である。
 アルジェリアであるが、アフリカの植民地とはいえ、仏印や南米など比較にならないマルセイユから船で内海を一晩、巡洋艦で最速半日、軍用機なら1時間、東にチュニジア、西にモロッコも従えてイタリア、スペインの手出しも許さないフランスの配下である。人口の一割、100万人は白人、130年来開拓に努めて来た伝来の土地である、というのが入植者の思いで、図書館で論理と口舌を磨いたくらいで世界を席巻しようなんて共産主義者に非難を受ける謂れはない。クーデター軍を率いてでも手放すまいと企図するのも想像に難くあるまい。
 ところが、そんなアルジェリアからの引き揚げ青年アンリ21歳が共産党活動家で彼が通う高校の詩文の教員アルバレッツの娘、マイテとなぜか契りを交わしてしまう。母に似たのか活動家色に染まりつつあり気な当のマイテもまた、この反動分子を拒めない。
 このマイテにはかねてより秀才のフランソワと付き合いがあって、フランソワは彼女を意識しつつもイタリア系アルジェリア人の寮友セルジュの乱暴な接近からゲイのこころを啓かれてしまい、この四人は互いに正反がまさに合となる寸前で凍結するかのように絡まりそこなってしまう感じだ。
 現政権の規格に合った試験解答を要求する大学入学資格試験も背景に加えて四人の進路も模糊とするが、5年後には68年。共産党員のマイテ、ゲイのフランソワ、複雑な血筋の移民セルジュ、中学卒業となりしかも"ピノ・ノワール"として差別を被る事になるだろうアンリの最初の分かれ道が夏の南仏の里山に付けられる。
 最初に消えたアンリこそ孤独だろうが、後の三人の一つ道も少しも仲間の一本道に見えない。なぜか三人そろってパリを目指すだろうと眺めながら、身体を寄せ合えてもこころは一向に合わさらない未来が見えるようで、あのきれいな山野もこころから笑い合う様子もない彼等もまたさみし気だ。
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