すし酢高跳び

WILLのすし酢高跳びのレビュー・感想・評価

WILL(2024年製作の映画)
4.1
とても哲学的なドキュメンタリー映画でした。

俳優の東出昌大さんを追った作品なんですが、彼が今、俳優と並行して精力的に活動している事が『狩猟』

山にいる動物たちを鉄砲で撃って、それを自らさばき、ジビエ肉を食べて生きている。

それは否応なしに『命』と向き合わざるを得なくて、命を奪うという、生と死が混在している世界があった。

当たり前だけど命を殺める時、可哀想だという気持ちが起きる。では何故、狩猟を続けるのか?と言う疑問も同時にわく。

いつしか、その動物を殺す行為自体に慣れていくのだろうか、だがそれでいいのか?
答えの出ない疑問と常に向き合いながら、狩猟を続けている。

彼は父親に連れられて、幼い頃からキャンプをするのが楽しかったそうだ。5歳でナイフをプレゼントしてもらったと話しながら、吊るされた鹿を肉と皮に分けて、内臓を丁寧にさばいていく。

東出昌大は、生きていく力のある人だと思う。

2020年のスキャンダル。それを機に、山へ行き本当の自分を見つめていった。

狩猟の師匠の1人、服部さんが言う『世間の皆が知ってるリアルサザエさん一家を自らぶち壊した』東出くんは、そりゃバッシングされるだろう、と。これにはとても納得出来たし、彼は我々観ている者の代弁者の如く、要所要所で辛辣な発言をするのだが、それがまた気持ちよくて笑える。

また、同じく狩猟仲間でありシェフをしている阿部さんが話す、この狩猟を共にする仲間との絆。
鉄砲持ってる訳だから、やろうと思えば簡単に人間同士も殺し合える状況下。
過酷な自然を相手に狩猟をするというのは、信頼がないと成り立たない。
だから、それに値する人間とでなければ一緒に山へ入らないし、その相手とはきっと一生の仲間でいると。

だから、服部さんもスキャンダルで大変な東出昌大をダメな奴と笑いながらも、決して見捨てる訳ではなく、山へ誘い助けたんだと思う。

実際、東出昌大という人間は、とても魅力的だ。素直で優しくて、いつも真剣で悩んで苦しんでいる。

後半には、ライバルともいえる週刊女性の記者とカメラマンと一緒に、ジビエ鍋を囲みながら仲良く話している。わかる、そーゆー事をさせてしまう人が、東出昌大なのだ。

また、福田村事件の為に和船の免許をとる場面や、撮影風景に森達也監督のインタビューもある。

音楽はラッパーのMOROHA。つい歌詞に聞き入ってしまう。これもまた良い。

東出昌大自身に迫るだけでなく、自然や環境、生きることや死生観にも及ぶドキュメンタリー。それだけに140分と長めではあるが、実に見応えのある作品になっていました。哲学好きの私は大満足、本当に面白かった。
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