CHEBUNBUN

声なき証人のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

声なき証人(2023年製作の映画)
5.0
【コロンビアの無声映画を繋ぎ合わせて『地獄の黙示録』を作る】
山形国際ドキュメンタリー映画祭でインドの奇才アミット・ダッタの新作が上映されると聞いて観に行った。そうしたらコロンビアの映画も同時上映だったのだが、これが2023年のベスト候補レベルの傑作であった。

コロンビアでサイレント映画のフッテージが見つかり修復したと提示される。エフラインがアリシアと出会い親密な関係になる。典型的なボーイ・ミーツ・ガールものであるが、的確にアイリスインを入れたり、群れの中で二人を強調したりと、音がなくても筋が追えるほどに強固な画を連ねる。サイレント映画時代が得意としていた画による表現を堪能する。彼女には別の男ウリベがいたため、二人は文通を通じて密かに愛し合っていたのだが、段々と燃え上がる愛情を制御できなくなってくる。それにより悲劇が勃発し、街を焼き尽くす火災にまで悲劇が広がっていく。ここでふと演出に疑問を抱く。サイレント映画の作品にしてはあまりに過剰なフッテージの重ね合わせが行われるのだ。ペーター・チャーカスキーやガイ・マディンさながらの壮絶なMAD動画が展開され、映画はなぜか失踪したウリベとアリシアを追うようにアマゾンの深部へと潜っていく『地獄の黙示録』のような物語が始まるのだ。

後で調べて判明したのだが、本作はサイレント映画のフッテージを繋ぎ合わせて架空の映画を作るというものなのだ。なのでアマゾンパートでは主人公らしい存在が見当たらないのも納得が行く。そして、キメラのように結合された物語はギャグのような超展開も用意されている。アマゾンの深部へと潜る中で戦争に巻き込まれるのだが、「戦争とは無関係だが参加してみることにした」とYouTuberみたいなノリで激しい銃撃戦に参加する場面があるのである。これには爆笑した。最近だと『オオカミの家』や『骨』がフッテージを使った偽映画という体で物語を編み込んでいた。このアプローチに可能性を見出したのであった。1回しか上映がなかったかつ「二重の影」部門は映画祭ギリギリまで映画の詳細がサイトにアップされていなかったため、会場の100人ぐらいしか知らない異様な体験だった。是非ともシアター・イメージフォーラムあたりで公開されてほしい。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN