ネノメタル

毒娘のネノメタルのレビュー・感想・評価

毒娘(2024年製作の映画)
2.5
まるで昆虫の死骸をコレクションするのと同じ分脈で幸福な家族を見ると刃物や鋏や猛毒ガスで崩壊に導きたがる正に『和製ジョーカー』とでも呼称すべきとんでもねえ紅のダークヒーロー、ちーちゃん。
やることなすこと、松本大樹監督『みぽりん』の主役みぽりん先生以上で、もはや犯罪者以外の何者でもないのだけれど、彼女の犯行動機に関しては、別にトラウマを乗り越えるだとか悲しい現実を忘れるためだとか、或いは世の中に何か叩きつける的なそういう明確な理由などがマニフェストさせる事なく極めて曖昧なのだ。むしろ曖昧にしてるのか。
 もはや彼女が「🙅‍♀️!!!」と判断したものにはトコトン制裁を加えるという理不尽極まりねえコンセプトらしい(笑)
いや、別に私はこのコンセプト自体を否定する訳ではなくむしろ「安っぽい家族愛」だとか「薄っぺらい人情」だとか、「エセ・ヒューマニズム」を重視するみたいな映画・音楽・舞台などのエンタメ界隈問わず、世の中に蔓延る生温〜い空気感みたいなのにグサグサとメスを入れていく彼女のアティテュードはコンテクスト次第によっては共感できる可能性も十分にあって、そこを少しでも感じ入られた点では個人的に非常に面白かったのだが、観ていくうちに登場人物のどこに焦点を置いてみたら良いのかが極めて曖昧で最後までグラグラしてるな〜と思ったし、それだけに全体としてグダグダな不安定な展開だと感じられたのが個人的に非常に残念だった。
 私がそう思ったのを象徴している事実として(これはパンフレットで見て気づいたのだが)本作の主人公が「ちーちゃん」でも「深瀬萌花(あの娘役ね)」でもなくてデザイナー業に未練がありつつも専業主婦として生きていこうとする「深瀬萩乃」だっていうのも少なからず驚いた....。
そっか!通りでちーちゃんの出番が少ない代わりに萩乃のアップがやたら多いと思ったわ。
 いやいやいや、誰もそれ思って観てないだろ!ポスターのビジュアルなんか見りゃ主役はちーちゃん、か展開的にせめて主役は萌花って思うのが筋じゃないだろうか?
(あと萌花の年齢設定が「中学生」ってのも無理ありすぎだろとも思ったり。これもパンフレット見て気づいたんだが。)
 その意味では前日譚として同時に発売されている『ちーちゃん』という押見修造氏によるオリジナル漫画の方がなぜちーちゃんがあのようなダークネスなヒーローと変貌していったのかが如実に描かれてるし、なんならあの『ちーちゃん』自体を映像化した方が彼女のキャラがダイレクトに伝わったのではないだろうか。総じて押見修造の作品の魅力とは映像では決して再現できないあの画力の凄まじさであると同時にあの時折描かれる沈黙や表情のニュアンスから滲み出るなんと言えない行間のようなもの、言うなれば「沈黙の美学」なのだという事を改めて実感した次第。
 まあ当たり前のことだけれども彼の漫画における沈黙や静寂のシーンは映像化する上で、さながらニュアンスを表現する事は絶対不可能だと思うし。
 という訳で本作は私はほぼ合わなかった作品なんだけども、【主人公がちーちゃんじゃねえ】バイアスを取っ払って再鑑賞したら印象が変わるかもだし、割と絶賛してる人も多いのも事実だから本作はヒットするかもしれない。言うまでもなく私1人がここで辛口っぽいこと吠えても全く影響ございませんからね、てことで正直にお星様は中間の2.5にしておく(笑)
 もしこちらが大ヒットしたとして、押見作品映像化ブームでも起きたとしても、今後は決してつい最近完結したあの傑作『血の轍』だけは映画化(ドラマ化)がなされない事を切に願う。
 特にあれだけは絶対に映像化では伝わらない「沈黙の美学」が本作以上に多分に含まれているから。
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