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毒娘のRUNPENのレビュー・感想・評価

毒娘(2024年製作の映画)
4.5
めちゃくちゃおもしろいです。

この作品、ホラーだとかなんだとかのジャンル分けをした先入観をもっての鑑賞はしない方がいい。

なぜならこれは
内藤瑛亮の「毒娘」という映画。
としか言えない作品だから。


とくに内藤監督のファンでもないし全作品を観てるわけでもない。
が、なんとはなしに気がつけばいくつか感想を書いたりする感じの距離感。

感想をもつ。ということは各作品にどこか面白みを感じてるわけで。
あらゆるテンプレ映画(ひねくりだした感動ポルノやらクソしょうもないコメディやら美男美女がおりなす胸キュンモノのことだわな)が粗製乱造される日本映画の中で監督と作品の印象が一致することは割と大切なことだ。



そんな内藤監督の最新作「毒娘」なのだが。
こりゃ現時点での内藤瑛亮の集大成作品と言えるのでは?



以下ネタバレあり。
長文。







本編映画「毒娘」を観る前に、重要キャラクターである"ちーちゃん"の前日譚となるスピンオフマンガ「ちーちゃん」を読んでいた。それがまぁその言い方が悪いがめっちゃ普通というかあまり面白くなかったというか「ふ〜ん」という感想しか出てこない感じのモノだった。

このマンガ、ちーちゃんのキャラクターデザインを担当された漫画家押見修造氏が執筆してるのだが、氏の直近作品「血の轍」の雰囲気と同じ日常にただよう不穏な感じが続く世界観で。
それは「血の轍」では効果的だったのだが、この「ちーちゃん」では短編ゆえか失敗してる気がした。



なので本編映画も「ふむ、まあ期待せずに観てみましょうか」とフリーザ声で思考する軽さで鑑賞。





ですが始まったらこれどうでしょう!!しょっぱなから良い感じ!!

ホラー映画の定説にのっとったような、エロい事をしようとする若者がとある空き家に侵入して謎の人物に襲われるという始まりかた!!!
ハサミシャキーン!!からのタイトルロゴ!!
デーン!デーン!デーン!とせまってくる毒娘の文字!!
このオープニングはめっちゃいい。ムダのなさにワクワクした。カッコいいし。

余談だがこのエロいことをしようとする男の態度。ここにも意味があるな。と鑑賞後のいま思う。






そして始まる本編。
家族関係、人と人の関係性から生まれる不協和音。それはいつも小さな事から始まるんだけど、この微妙にいや〜な雰囲気がやっぱ上手い。
ここからホラーを期待してるとなかなかそんな事にならないのでヤキモキすると思うが、そういう映画ではないのが鑑賞後ならよくわかる。
でもちーちゃんが出てくる時はちゃんとホラーするのでいいじゃあないか。なあ諸君。


この家族、男親に一人娘に継母っていう関係なのだがまあこの男親、ホ、ン、ト、ウ、ニ終始気持ちの悪い最低のモラハラっぷりが徹底し過ぎていて心底イライラして気がめいった。
劇中のモラハラっぷりを書き出すとキリがないのでやめておくが、何が問題かって現実にこういう男が本当に存在することだ。

無自覚無意識に周りの女性を所有物としてあつかう自意識というか。それでいて自分は女性側だと思っているところがまた厄介で。
この男親の描写はすごいよ。
ある意味この男の存在がホラーでもある。


自分はフェミニストではないし内藤監督もとくにそうではない、と思うのだがこの男親の存在は監督の問題提起だと思える。思いやりってなんだろう?
監督の他作品にも共通するテーマだと思う。
けっして昨今の○○ハラスメントブーム
ではない古い時代の価値観が恐ろしい。


そして驚いた事にここフィルマークスにはこの男親に関して「モラハラ"気味"の」とか「父親そんな"悪くない"のに」などと感想を書く人がいる。
え〜〜〜〜〜〜!!!!!?????
ホントに!!!???マジで!!??
お、お、お、おう。
この事実が一番恐ろしいよ。
この映画がリトマス試験紙になってるやん、、、まったくもって笑えんわ。


まあフィルマークスにはワタシふくめてアホばっかりなのでしかたがないが。




映画はそのあと主人公である一人娘「萌花」とちーちゃんの交流や継母の自立を映していくんだがこのあたりも良かった。

ちーちゃんと萌花の日々は「あれ?これジュブナイルモノ?」と思うくらい微笑ましく、観ていて「あれ?オレちーちゃんのこと好きになってない?」なんてボンクラ思考が顔を出すしまつ。
だいたいちーちゃんの声がかわいいのなんなんだよ。ケーキとコーラが好き。とかワイン飲んだあとのゲップ。とか。
内藤瑛亮、きみ、わかっているじゃあないか。


しかし一方で監督が長年テーマにし続けていると思う「思春期」の描き方がとても切実に思えた。
父親だろうが継母だろうが、ほんと家族ってたまたま近くにいただけの一番最初の他人なので。
そこにたどり着くのは自然だしだからこそ切実なのだが、それを重くしすぎないクライマックスは熱かった。
一周まわってふりきってエンタメ的に見せることで成功してるのがおもしろい。



萌花を探しまわり一度帰宅するクソ親父。
するとどうだ、まるでちーちゃんになったかのような萌花の姿!!
だーーん!!ここの左ななめ下から映る萌花が超カッコいい。
母親が死んだことを問い詰める萌花だが、ここでクソ親父がみせる態度の薄っぺらさときたら!!

からの!ちーちゃん登場!!クソの背中に飛びついて速攻のハサミ攻撃!!!
ボコボコ殴られるちーちゃんだが一瞬の隙をついて毒ヤリを刺す!!途中継母と萌花のなんやかやがありつつ最終的にクソにハサミをブッ刺して!開いて!閉じる!!
おおお〜!!

このクライマックスアクションのスピーディーな展開はホラー的ドッキリとヒーロー的爽快感が入りまじり、なんだかよくわからない感情をかきたてられて面白かったです。
まあ絶対にヒーローではないのですが。

最終的に萌花は全然悪くないんだけど、裏切られたようなカタチになっちゃったちーちゃんかわいそう。なんて思ってしまった。


物語は萌花の成長と継母との友情で終わる、、、



かと思いきや。
庭でのランチを楽しむ家族。期待どうりにちーちゃんが現れて赤いガスマスクを装着!!なにそれ?!
2階からの毒ガス投下で「おいおいこの家族殺すのなんで?」と思わずにいられないラスト。
こりゃちーちゃんファンになるボンクラどもが増えるのは確実です。

わけのわからないタイアップエンディングテーマが流れない真っ赤な背景でスパッと終わるエンディングロールもとても良いと思います。

うん、最後までおもしろい。



さっきからちーちゃんちーちゃん言ってるワタシだがやっぱり内藤瑛亮は女の子を可愛く撮る才能がめっちゃあると思っている。この「毒娘」でも実証された。

結論!!やはり内藤瑛亮はとっととアイドル映画を撮るべきである!!!
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