マツモトダイキ

ゴースト・トロピックのマツモトダイキのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
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上映が終わって辺りが明るくなる。
席を立とうとする直前の話。

ねえ、この映画もう1回見る価値はある?
隣の席にいた人にそう話しかけられた。

僕は案の定上映ギリギリにチケットカウンターに駆け込んだ。
「ご希望のお席を」
拡声器が彼女の消え入りそうな声を台無しにしていた。
隣は黒に塗りつぶされていたが
「F-9で」
そう答えた。
右の端側が好きなのだ。

場内に入ると皆、時間を自分の席に引きずり込み予告が終わるのを眺めていた。
見渡すと人と人に間があった。
僕らと友達と来ているであろう同い年くらいの女性たちを除いて。

何故ここにしたんだ?と思った。
席に着くとそれはより色濃くなった。
隣の人が靴を脱いでいた。お菓子を食べてた。
快適そうだった。迷惑はかけてこなそうだったけど、ちょっと不安になった。

そんな隣の人が僕に声をかけた。

「私2本立て続けに見ちゃって寝ちゃって。後半の方なんで病院にいるのかなにもわからなかったのよ」
「この映画もう1回見る価値はあるかしら」

この映画もちょうどそんな調子だった。
夜、列車で寝過ごし歩いて帰路を辿るおばあちゃんの話。
嬉しかった。
ここでしか起こらない出会いと勇気を出して聞いてくれた彼女に対して。

僕は一呼吸おいて、
「見る価値あると思いますよ」
そう言った。
またどこかで会えたらとも言った。
そうね。
と彼女が人見知りそうに目を逸らして笑ってそう言った。
彼女は25年間毎日映画を見てると言った。
そのせいで腰が痛くなってきたからあなたも気をつけなさいね。
そう言ってくれた。
僕は少し腰を触った。

お礼にって飴玉を2個貰った。
小豆の飴。少し困った。
でも嬉しかった。
でもさすがに少し困った。ひとまずカバンの内側のポケットに入れた。
覗くと今日も見える。

エレベーターで地上の渋谷に降りた。
雨が降ってた。僕は歩いた。ゆっくり。
イヤホンをした。
良い映画になったなってそう思いながら鼻をすすった。
たまには隣に座ってみようかなって思った。

Ghost Tropic

ちなみに僕も割と結構寝た。