寝木裕和

ゴースト・トロピックの寝木裕和のレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
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主人公・ハディージャとその同僚たちは退社したと思しき仲間の話題に花を咲かせている。
「故郷に帰っても自慢してるはずよ。」
そう、この話題の種の同僚は移民労働者で、その話題をしているハディージャと同僚たちもそれぞれ違う国の出身者だということが窺える。

この作品は、ハディージャの、ひょんなことから始まったとある一夜の夢のような散歩が主軸だ。
そしてその夜の散歩の中で、ベルギー・ブリュッセルという街で夜遅くまで働かなくてはいけない人々、夜通し働かなくてはいけない人々の内情が慎ましやかに語られていく。

映画の冒頭、ある部屋の無人のリビングルームが映され、そこにこんなナレーションが入ってくる。

「この空間を見ると
この大切な苦労が見える」

それはハディージャが故郷から遠く離れたブリュッセルで、掃除婦などをしながらなんとか家族を養い、そのアパートでの暮らしを、ようやく守れているということなのだろう。

映画のラストで映し出される、ハディージャの娘がどこか南国の浜辺で仲間たちと駆け出し、海を眺めている時の横顔。

その時、観ている我々もハディージャと同じような気持ちで、彼女のことが羨ましいような… また同時に移民二世である彼女たちの未来に希望を感じるような気持ちになるのだ。
寝木裕和

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